魔物のはびこる夜の森に、一人の少女が訪れる。額には「332」の焼き印、両手両足には外されることのない鎖、自らをミミズクと名乗る少女は、美しき魔物の王にその身を差し出す。願いはたった一つだけ。「あたしのこと、食べてくれませんかぁ」。
死にたがりやのミミズクと、人間嫌いの夜の王。全ての始まりは、美しい月夜だった。
第13回電撃小説大賞「大賞」受賞作。
オビに有川浩さんが推薦文を書いていた。
そうでなければきっとこの本を手に取ることはなかっただろう。
そして有川浩さんの著作をすでに読んでいなければ、
この独特の文章に耐えられなかったかもしれない。
二重の意味で有川浩さんのおかげで僕はこの本に出逢ったと言える。
有川浩さんは「奇をてらわないまっすぐさに泣けた」とこの物語を評している。
僕もそう思う。
この物語が美しいのは作者のまっすぐな想いが伝わってくるからだ。
こういう物語が書きたい、こんなキャラクターを描きたい、そういう意思が物語に込められ、
それが読者の心にまっすぐに届いているからだ。
ミミズクと彼女を取り巻くすべての人たちは誰もが優しい。
クロちゃんも、アンディも、オリエッタも、灰髪の王もディアも、街の人々も、そしてもちろんフクロウも。
こんなにも優しく暖かい人たちが傷つけあう必要なんて何もない。
それを防いだのはミミズクの想い。
何も求めず何も欲しがらず、
苦しいとも辛いとも痛いとも言えなくて、
涙の意味さえも知らなかったミミズクがただひとつ、心に抱いた気持ち。
それが多くの人たちを救った。
まっすぐにシンプルに物語が進んでいきハッピーエンドで終わる。
僕が読みたいのはこういう話なんだとつくづく思った。
自己満足の技巧とか、流行に迎合しただけの洒脱さとか、そんなものは本には必要ないのだと思った。
ただミミズクのように。
まっすぐに誰かを想うこと。
求めるのでも与えるのでもなく。
そういう物語は人の心に響く。
僕の心に響く。
(許してくれなくても、傍にいるわ。ねぇ、あたしを食べてよ夜の王様)