中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、西の魔女のもとで過した。
西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。
喜びも希望も、もちろん幸せも…。
その後のまいの物語「渡りの一日」併録。
大人向けの童話という感じがした。
物語は丁寧で綺麗で簡潔な言葉で書かれ、風景や人物の描写も美しい。
小説のお手本のような素敵な文章だから、ぜひ小学生の子たちにも読んでほしいと思う。
まいの幼く、だけどちょっと背伸びしたような大人っぽさがある言葉遣いが可愛らしくて、
なんだかとても気に入った。
まいは中学生なのだけれど読んでいてその設定をすっかり忘れ、
なぜか僕の頭の中では小学校の四、五年生くらいになっていた。
(中学生にしてはちょっと子供っぽすぎるんだよね)
まいだけじゃなくておばあちゃんもすごく可愛らしい。
二人の関係は祖母と孫でありながら、友人のようでもあり、
時々は師弟のようでもあり、姉と妹のようでもある。
なんだかとっても素敵だなあと思った。
おばあちゃんはまいに魔女になるために一番大切なのは
「自分で決める力、自分でやり遂げる力」だと言う。
それはとても難しいことだけどいつしかまいはその力を身につけていく。
だからまいは自分で引越しをすることを決めた。
引っ越すのは逃げ出すことではないとおばあちゃんが教えてくれたから。
「その時々で決めたらどうですか。自分が楽に生きられる場所を求めたからといって、後ろめたく思う必要はありませんよ。サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからといって、だれがシロクマを責めますか」
僕は小学生にこの本を読んでほしい、と書いたけれどこの一文があることも理由のひとつだ。
まいのように、学校に行きたくない理由を抱えている子供たちはたくさんいる。
彼らにはまいのように素敵なおばあちゃんはいないかもしれないけど、この言葉を心に刻んでほしい。
死んでしまうのに比べたら…逃げ出すことはちっとも悪いことじゃない。
引越しをしたまいはおばあちゃんと悲しい再会をする。
だけど西の魔女はまいとの約束を忘れていなかった。
その不思議な力でまいの心を慰めてくれた。
ニシノマジョ カラ ヒガシノマジョ ヘ
オバアチャン ノ タマシイ、ダッシュツ、ダイセイコウ
だからまいは最後に言いたかったのに言えなかった言葉を叫ぶことができた。
「おばあちゃん、大好き」
そしてまいの耳にはいつも聞こえていた優しい声が届く。
「アイ・ノウ」