長谷川初実(ハツ)は、陸上部に所属する高校一年生。
気の合う者同士でグループを作りお互いに馴染もうとするクラスメートたちに、初実は溶け込むことができないでいた。
そんな彼女が、同じくクラスの余り者である、にな川と出会う。
彼は、自分が読んでいるファッション雑誌のモデルに、初実が会ったことがあるという話に強い関心を寄せる。
にな川の自宅で、初実は中学校時代に奇妙な出会いをした女性がオリチャンという人気モデルであることを知る。
にな川はオリチャンにまつわる情報を収集する熱狂的なオリチャンファンであった。
この物語の主人公、長谷川初実のような子の気持ちは僕にはよくわからない。
クラスや部活の仲間たちには迎合することはできず、
といって延々続く退屈の砂漠には耐えられそうにもない。
寂しいのだか寂しくないのだか、楽しく過ごしたいのだかそうでないのだか、
強がっているのだかそうでないのだか、さっぱりわからない。
そんな気持ちは理解できない。
僕は学生時代けっこう楽しく過ごしていたけれど、
クラスの片隅で、やはりそんな想いで僕たちを見つめていたクラスメイトがいたのだろうか。
この物語にはハツの他にもう一人、孤独で阻害されている少年が登場する。
ハツに「にな川」と呼ばれるその少年はオリチャンというモデルに夢中で、
ハツはその少年に興味を持つ。
ハツの唯一の友人である絹代に言わせればそれは「恋愛」であり、
ハツにとって「にな川」は単なる「蹴りたい背中」である。
その認識の違いにハツはぞっとしてしまう。
ありきたりな青春小説であれば、
クラスから外れ者になっている二人がフツーにくっついて、
フツーに恋愛をするような物語で終わるのだろう。しかしこの小説はそうはならない。
結局最後までハツの考えていることはよくわからないし、ロマンティックな展開にもなりはしない。
ありきたりで当たり前の恋愛感情はどこにも書かれない。
ハツが「にな川」の背中を蹴りたいと思ったときに抱いたという、
愛情よりも強い気持ちの正体って何なんだろう。僕にはきっとわからないのかもしれない。
綿矢りさにはわかるのだろうか。(わかるんだろうな作者なんだもん)
であれば…綿矢りさはもしかしたらハツのような少女だったのかもしれない。
教室の隅っこでクラスメイトに相手にされずに、
カーテンの向こう側で誰にも読ませるつもりのない小説をしこしこと書き続けるような女子高生。
美少女と呼んでもおかしくないくらいの容姿を持っているのに、
恋愛に浮かれたりするわけじゃなく変な小説を書くのに血道をあげている女子高生。
当たり前の青春が苦手でちょっと捻くれてみなくちゃ気がすまないような。
もしそうだったら面白い。
もしそうだったらきっとこれからも綿矢りさは変な小説を書き続けてくれるだろうから。