学校生活&受験勉強からドロップアウトすることを決めた高校生、朝子。ゴミ捨て場で出会った小学生、かずよしに誘われておんぼろコンピューターでボロもうけを企てるが。
押入れの秘密のコンピューター部屋から覗いた大人の世界を通して、二人の成長を描く第38回文藝賞受賞作。
「インストール」は綿矢りさのデビュー作品であり、第三十八回文藝賞受賞作である。
この作品を書いたとき、彼女は若干十七歳の女子高生であり、
付け加えるならば、美少女と呼んでも差し支えない美貌を兼ね備えた女の子であった。
解説の高橋源一郎は「誰も年齢を加味して読んではくれない」と書いているが、
僕はこの意見には反対だ。
彼女の文藝賞受賞も、史上最年少での芥川賞受賞も、
「美少女高校生」という看板が影響しなかったはずはない。
十七歳の美少女が「一人エッチ」だの「パンツが湿った」だのあけすけに書いていることが、
受賞に何の意味も持たなかったとは思いづらい。
(少なくともいい歳をしたおっさんが書いているよりはよっぽど意味があるだろう)
僕はそれを悪いとは思わない。
売れるってことを第一に考えるのはプロとして当たり前のことだ。
「売れなくていい」という作家や編集や営業や本屋がいたら、
そいつはたぶんプロではない。趣味でその仕事をやっているのだろう。
第一、この物語は間違いなく「十七歳が書いたから意味がある」のだし、
「十七歳でなければきっと書けない」のだと思う。
変な句読点の打ち方も、奇妙な文章のテンポも、
輝くような表現も、朝子のセリフも、
すべて綿矢りさが十七歳だから書けたものだと僕は思う。
吉本ばななや近藤史恵のような女流作家たちにどこか似ているようで、
それでいてまったく違うもののようにも思える。
日本語の持つ曖昧さや、いい意味での適当さを最大限に活かしていると感じた。
破壊による創造。
そんな風に思えた。
たぶん、これが現代の文学というものなのだろう。
同時収録されている書下ろしの「You can keep it.」はそういう意味において、
革命的だった「インストール」よりもずいぶんと常識的なラインに落ち着いている感じがした。
ただし、そのぶんストーリーが面白さやキャラクターの魅力が出ている。
誰かに何かをあげることでしか自分を守れないし、
愛情を表現することもできない主人公。
そんな主人公にきつい眼差しを投げつけたヒロイン。
ほんの短い物語なのに、脇役の学生たちにまで個性が溢れていて、魅力的な作品だと思った。
単純に言えば「インストール」よりもこちらのほうが僕の好みには合う。
綿矢りさにはオーソドックスなものを書く地力もたぶんあるのだなと思った。