「Jの神話」 乾くるみ 文藝春秋 ★★★ | 水底の本棚

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全寮制の名門女子高を次々と襲う怪事件。

一年生が塔から墜死し、生徒会長は「胎児なき流産」で失血死をとげる。

その正体を追う女探偵「黒猫」と新入生の優子に迫る魔手。背後に暗躍する「ジャック」とは何者なのか?


Jの神話 (文春文庫)






閉鎖的な全寮制の名門女子高で起こる怪事件。


この導入部から、僕は綾辻行人さんの「緋色の囁き」を連想した。


そして、事実途中までは「緋色の囁き」に近いような展開を見せていく。


「緋色の囁き」で暗躍する殺人鬼と同じく、


この物語では「ジャック」と呼ばれる謎の人物が存在し、女子高生の不可解な死が続く。


ホラーのムードを持ったミステリ。


そんな物語なのかと思いながら読み進めた。


ところがさあ。いやあ、これはないわ。なんだこの展開?




途中で染色体の説明が延々入ったから


「これ意味あるのか? 冗長じゃないのこの説明は?」とか思っていたのだけれど、


まさかそこが物語のメインだとは思わなかった。


正直、「これがジャックよ」とか言って全裸の女子高生が登場したときは


何かの冗談かと思ったけど。


それが模擬ジャックではなく本当にジャックだったら、


たぶんその時点で本をぶん投げていただろうなあ(笑)



狂っている。僕はそう思った。


好きな人の子供がどうしてもほしいと願うその欲望そのものが狂っているというわけではない。


僕にはちょっと理解できないけれど、そういう気持ちを否定はしない。


どうしても子供ができない夫婦が人工的な方法で子宝を授かろうとすることも否定したくない。



医学がどこまで進んでいいかという問題はあって、


僕は既に止まってもいいのではないかと思っているのだけれど、


それはあくまで他人事だからの意見だろう。


当事者となれば、こんな冷めた発言をしていられるはずもない。


だが。それでもやっぱり僕はこの物語は狂っていると思った。


生物は種を保存していくために生殖活動に快感を伴なうように仕組んだ。


そうでなければ、あんな面倒くさいこと続けやしないと踏んだからだろう。


愛情というファクターは生物学上、無視されているわけだ。


だけど、この物語の中ではそれを逆手に取られて人間は滅びようとしている。


人間は愛情でなしに、快感だけを求める生き物と化し、Jに食われようとしている。


どこまで絶望的で皮肉なエンディングだろうと思った。