平凡な家庭の小学生・圭輔は、ある事故をきっかけに遠縁の同級生・達也と暮らすことになり、一転、不幸な境遇に陥る。
寿人という友人を得て苦境を脱し、長じて弁護士となった圭輔に、収監された達也から弁護依頼が舞い込んだ。
“私は無実の罪で逮捕されました。どうか、お願いです。かつての友情に免じて、私の弁護をしていただけないでしょうか”。
裁判を弄ぶ達也、追いつめられた圭輔。
事件を調べ始めた寿人は、証言の意外な綻びを見つけ、巧妙に仕組まれた罠をときほどいてゆくが―。
ミステリなんてものをたくさん読んでいると、
胸糞が悪くなるような悪人と出会うことは多くなる。
本当に同じ人間のすることかと問いたくなるような、本物の悪だ。
この「代償」に登場する達也という男は、まさにそういう人物だ。
“人の皮を被った獣”という表現があるが、そんな比喩を使ったら獣の方から抗議がきそうなくらい、
狡猾で、悪意に満ちた男。
人を貶めることに無上の喜びを見出し、モラルも人情も道徳も何も持ち合わせていない男。
この本を読んだ誰もが、
達也に天罰が下ることを願いながら、それだけを信じながら、ページをめくることだろう。
とにかく、読み始めてしまったら、最後までやめることはできないだろう。
達也に罰が下るところを見ずに、本を閉じることができるような読者はたぶん、いない。
だが、どこまでも達也は狡猾でなかなか尻尾を掴ませない。
物語の中盤を過ぎ、終盤にさしかかってもまだ達也はへらへらと薄ら笑いを浮かべたままだ。
無職で貯金もなく、おまけに殺人事件の容疑者。
社会的にはまったく無力のはずの達也が、
弁護士である圭輔を追い詰めていく。
おいおい圭輔、もっとしっかりしろよ。そう言いたくなる。
言いたくなるのだが……それが達也の恐ろしさというものなのだろう。
読んでいて、気分が悪くなることは保証する。
落ち込みたくないなら読まないほうがいい。精神衛生上、決して良いとは言えない。
でも、同時に、夢中になって読める物語であることも保証する。
絶対に。