東京の大学で美術の非常勤講師を務める賢一。
30代も半ばを過ぎているのだが、結婚の予定もなく、ギリギリの収入の中、一人ほそぼそと生活を送っていた。
そんなある日、田舎に住む弟から一人娘を一週間預かって欲しいと連絡がくる。
しぶしぶ引き受けることになった賢一を駅で待っていたのは、小学四年生の美少女・ミドリ。
しょっぱなから毒舌全開、得体の知れないミドリに圧倒されながら、賢一とミドリの一週間の共同生活が幕を開ける…。
深水黎一郎の新刊とあっては、
そりゃ本格ミステリを期待するでしょう。そりゃするさ。
表紙には、なんだかぼんやりした印象の青年と、瞳のくりくりした少女が描かれていたけれど、
前作の「世界で一つだけの殺し方」の例もあるし、
少女が探偵役、ぼんやりした感じの青年がワトソン役になるのかと勝手な想像をしていた。
どこで事件が始まるのかなーと思って読み進めるが………、
特に何も起こらない。
いや、事件らしきものが起こっているような気もするのだが、
それがまったくメインストーリーと絡んでこない。
だって、メインストーリーは、みどりがひたすら我が儘を言って、
賢一を困らせているだけなんだもんな。
それでも、それが結構読めてしまうから不思議。
バリバリの本格ミステリを期待して読み始めて、
ミステリとはたいして関係ないドタバタ劇を読まされているというのに、
なぜか面白く読めてしまった。
おそらくポイントは、ミドリのキャラクター。
まるで夫婦漫才かと思うような、賢一との息の合ったボケとツッコミ。
我が儘放題なのに、決して不快ではない。むしろ愛らしく思える。
ラスト近くでは、
誘拐事件のクライマックスがあったり、
哀しい別れがあったり、
また出逢いがあったり、
少しミステリっぽくもなりますが、
たとえそれがなくてもおそらく僕はこの作品に満足したでしょう。
ミドリと賢一。ドタバタコンビの未来に幸あれ。
「お願いします。ミドリのおとうさんになってください」