タンポポは主張している。
自分が四人を斬殺したことを。そして、凶器を変えて犯行を続けることを。
十年前の連続無差別殺人事件の模倣犯を追う捜査一課刑事・雪見喜代志。
全寮制女子校の聖堂で天に赦しを乞うために祈り続ける罪人・山村朝里。死地をも厭わず数々の難事件と対峙してきた傷だらけの泥犬・藍川慎司。
三人揃って怒涛の急展開。著者渾身の書き下ろし、警察小説×学園小説×活劇小説=未曾有の傑作ミステリ。
被害者のもとにタンポポの綿毛を残していく連続殺人犯。
そしてそれを追う刑事たち。
あれ?
詠坂雄二なのに、警察小説?
あまりに予想を裏切る物語の幕開けにちょっと呆然。
そしてその連続殺人犯逮捕の目途もつかず、
(唯一、過去の犯罪の模倣ではないかということが分かるのみ)
物語の舞台は、あるカトリック系の全寮制女子高校へ。
なに?
今度は学園ミステリになっちゃうの?
違和感を覚えつつも読み進めると、
全寮制という鎖された空間の中で自分の過去の罪に対する罰を探し続ける少女の存在が大きくなり、
連続殺人犯のことを忘れかけてきたところで……、
今度は、失踪中の名探偵・月島凪の懐刀と言われる藍川慎司が登場し、
アクション満載のストーリーに変化。
詠坂雄二だから本格ミステリだと思って読み始めたのに……名探偵が不在とは。
ただ、名探偵不在というこの状況下において、
本来はアクションを担当する藍川慎司が“推理をせずに直観だけで動く”探偵役として、
事件を解決に導くというのはなかなか面白いところ。
※このあたりからねたばらしが入ります。
また、その名探偵不在というファクターが事件を起こす引き金になっているところが、
(前例はあるにせよ)興味深くもあります。
犯人については、後から思い返せばかなり明示的な文章もあったりして面白いですね。
そもそも、「警察の動きを熟知している」とか「全寮制の女子高に侵入できる」とか、
それらの条件を踏まえれば、野間が犯人であるのは、逆に自明の理かもしれません。
それを、失踪している凪や、かつての爆弾魔である少女などの存在でうまく目くらまししていますね。
野間の「自分が犯人でないことは当然承知ですよね」というセリフなどは、
ギリギリの綱渡りで成立しているミスリードで、本当に巧いなあと感心してしまいます。
物語全体の印象は本格ミステリからは遠いのですが、
こういう細かな仕掛けがいかにも詠坂雄二らしくて良いですね。
なお、タイトルのドゥルシネーアとは、
かの有名なドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャが夢想する妄想上の貴婦人のこと。
この場合、ドゥルシネーアは月島凪でしょうね。
凪に対する野間の勝手な妄想がこの事件を起こしたのですから。
そしてラストでは、凪に対して別の妄想を働かせる少女が………。
このヒキはまた別の物語につながりそう……でつながらないんだろうなきっと(笑)
何もかも見透かせる彼女と、あなたはまるで逆だ。何一つ真実を知らないまま正解を選べてしまうんだ。ある意味、名探偵より凄い