「私たちが星座を盗んだ理由」 北山猛邦 講談社 ★★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

難病の女の子を喜ばせるため、星座を一つ消して見せる男の子を描く表題作ほか、5つの物語のすべてに驚愕のどんでん返しが待つ、ファンタジックな短編集。

優しく、美しく、甘やかな世界が、ラストの数行で残酷に反転する衝撃は、快感ですらある。


私たちが星座を盗んだ理由 (講談社文庫)


※ねたばらし感想です。未読の方は絶対に読まないほうがいいですよー!






「恋煩い」


「プロバビリティの犯罪」の名作。


恋愛おまじないという、女子高生が無条件で従ってしまいそうな二大要素が、


仕掛けの肝になっているところが巧い。


最初の「階段を後ろ向きで降りる」というおまじないは、


僕も読んでいて「危なくないかそれ」って思わなくもなかったのだけれど、


なまじ偶然にも良い結果に繋がってしまったために、


おまじないの危険性が完全に隠蔽されてしまった。(読者にとってもアキにとっても)


このミスリードが巧み。



「妖精の学校」


たぶん、多くの読者がオチの意味がわからずに、ぐぐったであろう。


でも最後のキーワード、「20°25′30″136°04′11″」で検索をすると……


「東の虚」「北の虚」「巨大な黒い影」「黒い影が落としていったビラ」「涙の形」など、


寓話を彩っていたキーワードの意味が霧が晴れるように理解でき、


なぜ子供たちがこの学校に集められていたかもわかる。


それを踏まえて、先生の


「あなたたちは守り、守られる存在なの」


という言葉を読むと、なんだか暗い気持ちになりますね。



「嘘吐き紳士」


「ユーくん」を装って「キョーコ」を騙し続けていた青年は、


いつか「キョーコ」と出会うために真っ当な人生を歩むことを決意し、


そして彼と「キョーコ」は運命の出会いをするのです………


というような話であったなら、


面白くはないけれど、この後味の悪さはなかっただろうなあ。



「終の童話」


「石像を元に戻す順番を繰り上げるため」という理由を隠れ蓑にすることで、


犯人を完全に村人と読者の眼から逸らしている部分が秀逸。



正直、平気で石像を破壊しまくっていたワイズポーシャの冷徹さは、


たとえその行為が慈悲や救済に基づいたものであったとしても、容認しづらいと感じた。



特に「これは手遅れです」「もう、ぼろぼろじゃないですか」などの言葉だけで、


長い年月ずっと彼女の復活を待ち続けていたウィミィを絶望に突き落とすのは……


もうちょっと言い方があるだろうに!


さて、そのウィミィですが、物語はリドルストーリーのような結びになっているけれど、


実際はどうだったのかな?



「私たちが星座を盗んだ理由」


少年はどうやって夜空にある星座を消したのか?


いわゆる日常の謎ミステリに属するものだと思うけれど、


このジャンルに属する作品の多くが持つほんわかした雰囲気はこの作品には無い。


伏線はあからさまにわかりやすく提示されているので、


大半の読者にとっては、アンハッピーエンドの結末が見えていることだろう。


お互いを思いやっていたはずの三人のすれ違いが非常に悲しい。