「密閉教室」 法月綸太郎 講談社 ★★★★★ | 水底の本棚

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本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

早朝の教室で、高校生中町圭介は死んでいた。コピーの遺書が残り、窓もドアも閉ざしてある。

しかも異様なことに四十八組あったはずの机と椅子が、すべて消えていた。

級友工藤順也がその死の謎に迫るとき次々現れた驚愕すべき真相とは?


密閉教室 (講談社文庫)


※ねたばらしありの感想です。未読の方はご注意を。







淡々としているが、ちょっと気障ったらしく鼻につく文章。


だが、それがこの青臭い物語にマッチしている。


(それが気に入らない人はけっこう辛いかもしれないなあ)




学園ミステリであるにもかかわらず、


従来、このジャンルの小説が持っている明るさや若々しさ、コミカルなタッチはまったく見られない。


学園を舞台にした大人たちの小説のようだ。

キャラクターたちが全員大人すぎるかなとも思えるが、


彼らなりに精一杯の背伸びをしているようにも見える。


未成熟な子供たちが大人の振りをし、大人たちもそれを甘受している。


あまり現実的でないと言えばそうだが、

(例えば警察がペラペラと手掛かりを主人公に明かすなど)


そういう舞台背景だからこそ起こった事件であるとも思える。


章の中をさらに細切れに区切っていることも含め、少々異色な味を出している小説だ。



トリック自体の着地は成功していると言えるだろう。


机と椅子を教室の外に運び出した理由や、


事件現場を移動させなければいけなかった理由も、


整合性がとれている。



飛雲館事件をひとつのエピソードとして不自然でないように話中に挿入し、


説得力を出しているのも良い。


好きなシーンは「折れた剣」。


小石は浜辺に。
木の葉は森の中に。
そして四十八組の机と椅子は、八組ずつに小分けして、六つの教室に。



思えば、このシーンが唯一、主人公である工藤少年が輝いた瞬間だろう。


法月氏一流の二転三転するラストで、彼は傍観者に仕立て上げられてしまう。


彼は確かに緻密な推理を披露したが…


あくまでもそれは事件のトリックの解明に成功しただけであって、物事の本質を掴んではいなかった。


そういう意味では確かに彼は道化に過ぎなかったのかもしれない。



「(前略)もしかしたらあなたは今日という一日から何か貴重なものを学び取ったと思い込んでいるのかもしれない。たぶんそうにちがいないわ。でもそれは大きな誤解なのよ。道化は何ひとつ学ぶことはないわ。ただ傍観するだけ―」


吉沢信子の言葉はきつく鋭い。だが真実だ。

ところで、最後の「あとがき」に代えて書かれている「コーダ」。


この不可解な一節は一体何なのだろう?


 後に出版された「ノーカット版」では多少、文章が付け足されているがそれでもよくわからない。


この文章は、作中人物である工藤のものか、それとも法月自身のものか。


つまりはこれはまだ小説の中なのか、それとも舞台裏なのか?