「電気人間って知ってる?」――名坂小学校周辺を中心とする遠海市にのみ伝わる、ローカルでマイナーな都市伝説〈電気人間〉。
戦時中に軍によって作られ、語ると現れて電気で人を殺すという。
その〈電気人間〉を民俗学の研究テーマに選んだ大学生・赤鳥美晴は、フィールドワークとして名坂小学校を訪れ、かつて軍の研究施設だったらしい学校裏手の地下洞を調べるが、そこには何も残されていなかった。
そして翌朝、美晴は宿泊先のホテルで死体となって発見されるが、死因は心不全で事件性はないと判断される。
美晴と親しかった高校生・日積亨は、美晴が誰かに殺されたに違いないと考えてその足跡をたどっていくが、たどり着いた地下洞で命を落とし……。
電気人間とは……。
語ればそれはどこにでも現れ、
密室をモノともせずに侵入し、
痕跡を残さずに人間を殺害し、
人間の思考を読み取ることもできる、
旧日本軍が作った兵器(?)らしい。
そんなもん、いたら本格ミステリとして成り立ちませんがな。
だから、このミステリは電気人間の存在の有無を明らかにするのが目的である。
実際に、電気人間が存在し不可能殺人を犯しているのか。
それとも電気人間を装った、人間の犯罪なのか。
終盤までその謎は引きずられ、
読者はこの小説が本格ミステリなのかSFホラーなのかを判断できずに、
物語を読み進めていくことになる。
そこにこの小説の最大のトリックが仕掛けられているとも知らずに。
※ここからねたばらしです。未読の方はご注意を。
各章の冒頭はすべて、「電気人間」または「でんきにんげん」という言葉ではじまっている。
それは「語ると現れる」というルールに基づいて、
冒頭から必ず、電気人間はそこにいたということなのだ。
つまり、このミステリは三人称・神の視点から語られている物語に見せかけて、
電気人間が語る一人称の作品だったのだ。
本来であれば登場人物の心理描写などは一人称では不可能なのだが、
電気人間は何しろ「他人の思考を読み取ることができる」のだから、それもまったく問題ではない。
視点人物の隠蔽というトリックは前例も多いけれど、
これほど完璧にそのトリックを成立させている作品は他にはない。
「語ると現れる」というルールが厳格に守られているということが書かれていないため、
その点で若干アンフェアではないかという印象を与えるのだが、
その瑕疵も気にならないほどよくできていると思う。
真相が明らかになると同時にはっきりするタイトルに隠されたもうひとつの意味も見事。
オチは少々悪ふざけが過ぎるような気もするが、
最後の最後まで奇をてらった展開に誰もが脱帽すること請け合いである。