もっと気楽に考えればいいじゃないか。
手紙で近況報告するくらいの気持ちでね、という言葉に後押しされ、物語を書き始めた駒子。
妙な振る舞いをする「茜さん」のこと、噂の幽霊を実地検証した顛末、受付嬢に売り子に奮闘した学園祭、クリスマス・イブの迷える仔羊…。
身近な出来事を掬いあげていく駒子の許へ届いた便りには、感想と共に、物語が投げかける「?」への明快な答えが。
※ねたばらしありの感想です。未読の方はご注意を。
「秋、りん・りん・りん」はとても優れた推理小説です。
けれど、ついつい、自分の読んでいるものが「推理小説」であることを忘れてしまいます。
僕らも体験してきたような、本当に当たり前の大学の一場面を切り取ったスケッチ。
ありきたりだけど、なんだか微笑ましくなるような風景画を観ている気にさせられます。
駒子同様、「茜」さんの強烈なキャラクターに圧倒されて読んでいるうちに唐突に謎に出逢います。
解決編を読み、そこで初めて多くの伏線がしっかりと張られていたことに気づくのです。
それにしても「茜」さんは強烈ですね。
駒子が、もしふみさんや愛ちゃんや野枝のような性格だったら、
多分、怒り出してあっという間に彼女のことを放り出していたでしょうね。
「あんたみたいな、能天気な子たちのこと」
「あら、あたしは今、幸せって言ったんだけど? 蛾を蝶々だと思い込んだまま生きていけるのなら幸せなのよ。ねえ、こんな言い方って言葉遊びみたいかな」
いやあ、悪意丸出しですね。
そりゃ、大好きなお兄ちゃんが憎からず想う相手となれば心中穏やかではないでしょうし、
しかも自分がその「能天気な子たち」の仲間に実は入りたいのだとしたら、
こんな言い方になるのも仕方ないのかもしれませんけど。
噂の幽霊を友人のたまちゃんと実地検証する「クロス・ロード」、
受付嬢に売り子にと、大奮闘した学園祭の「魔法飛行」、
クリスマスイブに正体不明の手紙の差出人を探す「ハロー、エンデバー」も、
それぞれに魅力的なお話です。
ところで。
この作品の魅力を最も端的に表現した文章があります。
それは有栖川有栖さんのあとがき。
あなたが男性ならば、自分を愛する女性から「魔法を見せて」と望まれていることを忘れてはならない。
そして、あなたが女性だったなら、愛する男性の魔法を信じてほしい。
「魔法飛行」で、リアリストの野枝に対し、幼馴染の卓見が仕掛けた魔法はまさにこれ。
可愛らしく、素敵な魔法です。
この本のように。