「クリーピー」 前川裕 光文社 ★★★☆ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

犯罪心理学の教授の高倉には、奇妙な隣人がいた。

父親とおぼしき同居人を「お父さんじゃない」と言う娘が住むその家庭に興味を抱いていた、高倉の友人の刑事は行方不明になってしまい、やがて高倉邸の真向かいの家が焼け、焼死体が発見される……。

鬼気迫る臨場感をたたえた、傑作心理サスペンス誕生。



日本ミステリー文学大賞新人賞 受賞作 クリーピー




オビの綾辻行人さんの推薦文に惹かれて購入。


(作者が母校の教授であるというのもちょっとした理由のひとつ)



綾辻行人さんや有栖川有栖さんはよくミステリのオビを書かれますが、


これがまた結構ハズレが多い。


僕にとって、綾辻行人さんや有栖川有栖さんが書かれる小説にはほとんどハズレがないのに、


その人たちが推薦する本は結構外れるのはなぜか。



そんなわけで、本書もドキドキしながらページをめくったのですが、



これは大丈夫!


アタリの部類でした!!




クリーピー……。


辞書をひくと、creepy=ぞっとするさま。ぞくぞくするさま。



うん。これは看板に偽りなし、だ。



昔の方が良かったなんて、年寄りくさいセリフを吐くつもりはないが、


昔より現代のほうがご近所意識が希薄であるとは言えると思う。


(それが良いとか悪いとかではなく事実としてね)



僕は超がつくくらいの下町育ちなので、


隣人がいつの間にか別人になっていたとしてもわからないというのは、


さすがにどうかと思うが、


自分が一人暮らしをするようになってマンション住まいとなったら、


それもあるかもなあ……と思えるようになった。


実際、今、両隣の夫婦(どちらもウチと同じくらいの年齢)の顔を覚えているかと訊かれたら……


あんまし自信ないな。



さて。


物語の主人公は犯罪心理学を研究する大学教授、高倉。


隣人はとても愛想の良い五十がらみの男、西野。妻と息子と娘の四人暮らし……らしい。


らしい、というのは、実は高倉は妻と息子の顔を見たことがない。


そして、さらに言えば、西野は外で見せる温厚な顔に似つかわしくないことだが、どうも娘である澪を虐待しているようなのだ……。


秘密めいた隣人に疑念を抱いているそんなとき、高倉を高校の同級生で刑事である野上が訪ねてくる。


野上は八年前、東京都日野市で起きた一家三人行方不明事件について、高倉の意見を訊かせてほしいと言う。


家にいなかった中学生の長女を残し、両親と長男の三人が突如として失踪した事件だ。



その事件と今、高倉が置かれている状況の類似性……それに気がつくと、先の展開がちょっと見える。


見えるのだが……。


物語はそう単純に進んでくれない。



野上が突然失踪してしまったり、近所の田中家が放火されたり、高倉が教え子との不倫(実際はしていないが)を告発されたり……。



さまざまな事件が予測不可能な方向から起こり、


そこに、一人の男の姿が見え隠れする。



先行きがまったく見えない構成がとてもサスペンスフルで、


従来のサイコキラーVS警察というような単純な図式にはない緊張感がある。


物語の運び方がとても巧いのだ。


週刊連載のように、物語がダレる前にいいタイミングで山場がくる。



伏線や謎をすべて余すところなく回収する真相も見事。


ただ、説明しすぎ…というか、きれいにまとめすぎの部分もあるかもしれない。


これはないものねだりに過ぎないのだけれど、


クリーピーな前半に比較して、後半はミステリになっていたかな。


貴志祐介さんの「黒い家」なんかと比べると、犯人の悪意や恐怖に物足りなさはある。

(比較する相手が悪いか)



河合優が現れたところで、その後をいっそ読者の想像に任せてしまうという手もあったかもしれない。



ま、実際にそういう終わり方だったら、


それはそれで、


曖昧すぎる!とか文句言うんだけどな(笑)