東京郊外のビル地下にあるバー「ざばずば(the bar's bar)」に集う男女五人。
脳溢血で急逝した愛すべき酔いどれ作家・アール柱野を偲び、彼の馴染みの店で一晩語り明かそうという趣旨の会合だった。
集まった五人はいずれも一癖ある連中ばかり。
不倫関係にある医師と看護師。
蔑まれてばかりの人生に嫌気がさしている自殺志願者の男。
飲酒がバレて謹慎処分中の女性タレント。
酒の誘惑に負けて仕事を放り出して来てしまったプログラマ。
翌朝まで鍵をかけられ外に出られぬ密室の中、緊張感は高まっていく。
しかし五人にはそれぞれ出るに出られぬ「理由」があったのだ…。
登場人物たちのキャラクターだけでも訳のわからないストーリーになりそうなのに、
そこで地震が起きたり、
地震で崩れた木箱から顔を黒く塗られた見知らぬ死体が転がり出たり、
私立探偵を名乗る怪しげな男が乱入したり、
地上では火事が起きたり、
最後には医師の妻まで死体で登場し、
まるで嵐に巻き込まれた船のように、物語は迷走しっぱなし。
これだけパニックになれば、地上に出ればよさそうなものですが、
翌日の早朝にビルの管理者が迎えに来てくれるまでは入り口のシャッターが開かないし、
そもそも彼ら五人にはそれぞれ出るに出られない理由があるのです。
デビュー短編集の「九杯目には早すぎる」でも、
奇妙なひと癖もふた癖もある人物がたくさん登場していましたが、
それが物語の彩りとして成功していました。
しかし、本作においてはそれが悪い方向に出ているようです。
ちっとも面白いとは思えませんでした。
そもそも、どの辺にミステリとしての面白さがあるのかわかりませんでしたね。
ただのドタバタ喜劇を延々見せられただけのような気がしてなりません。