休日に上司と遭遇、無理やりに酒を付き合わされていたら上司にも自分にもまるで予期せぬ事態が。
第26回小説推理新人賞受賞作「キリング・タイム」を始め、第58回日本推理作家協会賞・短編部門の候補作に選ばれた「大松鮨の奇妙な客」など、ユーモラスな空気の中でミステリの醍醐味を味わえる作品の数々。
蒼井上鷹のデビュー作品。
この頃は、もしかしたら面白い作家さんになるかもしれないなあ、と思っていた。
……見込み違いだったけど。
デビュー作品が一番面白いっていう作家さんって結構いるよな~。
この作品集は軽妙な筆致と合わせてそれなりに評価していい短編集になっているのだけれど、
2作目以降は、その軽さが悪いほうに出ているような気がしますね。
「大松鮨の奇妙な客」
妻の友人に夫の尾行を頼まれた男のお話。
尾行している相手は、鮨屋で、軍艦巻きと茶碗蒸を混ぜ合わせるという奇行で注目を集める。
さて、その真意は…というところですが、思いもよらなかったどんでん返しが待っていました。
意外性はありますね。
「私はこうしてデビューした」
一種の叙述的な仕掛けがしてありますが、個人的にはこれはちょっと不要だったかなあと思います。
サイコな話だけで十分面白かったのだけれど。
あと、猟奇的なファン(?)の正体の仕掛けも意味がないような気がしました。
「タン・バタン!」
主人公の苛つき具合がとてもよく伝わってきました。
皮肉たっぷりのオチもまあまあ。
でも、作中の曲はとてもヒットするような曲には思えないんだけれどなあ。
「見えない線」
本短編集の中では一番面白かったかも。
厳密に言えば、推理小説ではないですけれどね。
女ってのは、本当に残酷で自分本意な生き物ですね。まあ、それも魅力といえば、魅力なんだけれど(笑)
「キリング・タイム」
これも「私はこうしてデビューした」同様、叙述的な仕掛けがしてありますが、途中でかなり違和感を覚えました。
主人公の相手は奥さんじゃなくて、娘?
でも、思いっきり名前が違うしなあ…と。
これはちょっとアンフェアというか。
少なくとも美しくはないですね。
その他に「においます?」「清潔で明るい食卓」「最後のメッセージ」「九杯目には早すぎる」と四編のショートショートが載っています。
いずれも数ページの小作品としてキレイにまとまっています。
この作者の描く登場人物は、ちょっと一癖ある人間が多いですが、それがうまく描けていると思います。
「私はこうしてデビューした」の思い込みの激しいストーカーのようなファンや、「タン・バタン!」の人の話を聞かないオジサン、「キリング・タイム」のセコくて小市民な上司など。
読んでいて、主人公たちが苛つくのが実感としてわかります。