「六月六日生まれの天使」 愛川晶 文藝春秋 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

ふと目覚めると、私は記憶を失っていた。

同じベッドにはゴムの仮面を被った全裸の男が眠っている……。

ここはどこ? この男は誰?
扉を開けると、意外にも外は雪。そして初老のサンタクロースが私に手招きをしている!
記憶喪失の女と男の奇妙な同居生活。その果ての結末は?



六月六日生まれの天使 (文春文庫)



記憶喪失。



自分探し。



「私は誰? ここは何処?」の世界である。



ミステリではよくある話でそう珍しいものでもない。


もはや叙述ミステリのいちジャンルとして確立されている感すらある。


僕はそれほど注意深い読者ではないし、


たいしてアタマを使って小説を読むタイプでもないが、


この物語のどこかに叙述的トリックが隠されているであろうことは最初からわかっていた。


その時代を表すような記述が多く見られることや、


わざわざ日付や時間が章の最後に記されていることなどを併せて考えると、


そのあたりに何かあるよな…と想像するのは当然のことである。


恋愛小説と叙述トリックを見事に融合させた作品として、


乾くるみさんの「イニシエーション・ラブ」があるが、


それと比較するとこの小説は少しばかり落ちる。


やくざ絡みのドタバタや、過剰と思えるベッドシーンなどは僕の好みではないし、

(そういえば「イニシエーション・ラブ」にも官能小説かと思えるほど冗長なベッドシーンがあったが)


真相もそう驚きがあるわけではない。


自分が何者かわからなくなった人物を主人公に据えた物語というのは、


読者も同じ目線で謎解きをしていくことができるという点で緊迫感やドキドキがあり、


そのあたりを楽しむのが本筋なのだろう。

ただ、僕は主人公にさほど感情移入できず(つまりはあまり主人公を好きになれず)、


何となく客観的な視点で読んでしまっていた。


そのへんがこの物語をあまり楽しめなかった要因のひとつだろう。