「ダイニング・メッセージ」 愛川晶 光文社 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

見合いの席で、なぜかシチューに入っていたビー玉、上司の弁当の中身を匂いだけで当ててしまう「絶対嗅覚」を持つ女、次々と桐野に送られる「食人鬼」からのメール、そして根津愛が仕組んだ…。

さまざまな謎が思わぬ広がりをみせ、意外な「事件」に発展し「かつてない活躍」を見せる美少女代理探偵・根津愛シリーズ。

代理探偵を超えた(?)新キャラクターも登場。



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いるんですよね、ダイイングメッセージのことを、「ダイニング・メッセージ」って書いちゃうヤツ。



食堂のメッセージってなんやねんってハナシですよ。



被害者が死の間際に残したメッセージ……だから、ダイイングメッセージ!


……なんですけど。


本書のタイトルは、実は、ダイニングで合ってるんですよね……。




とりあえず長編なのですが…どちらかというとオムニバス形式の短編集といった方が正しいかもしれません。


三つの不可解な事件がキリンさんを惑わしますが…。


この作品にはミステリ史上初かもしれない(と思う)、


変わった趣向が凝らされています。


※はい。ここからねたばらし。






なんと、三つの不可解な事件は全て、我らが美少女代理探偵が事前に解決してしまいます。


つまり、ひとつとして事件として成立していないのです。



ね? ミステリ史上、他に類を見ないと言っても過言じゃないでしょ?


だって、事件が起きなきゃ、ミステリ小説として成り立たないんだもん。



意外に盲点になっていることですが、


事件が一通り終わるまで名探偵が指を咥えて見ているという事実は、


実はミステリの最大の泣き所になっています。


凶行をひとつとして防げないのになにが名探偵だと指摘されても仕方のないところでしょう。


連続殺人の最中、頭をかきながら翻弄され続け、大量殺人が完遂された後に神のような名推理を展開するの金田一耕助なんかは最たる例ですね。



この小説はその矛盾に対するひとつの解答。

本作では一切の事件がすべて「未遂」のまま、愛ちゃんに阻止されてしまいます。


それでいてミステリとしての魅力を十分に発揮するというのは…作者はかなり苦労されたでしょうね。


あとがきでは「手足を縛って競泳大会に出場するようなもの」と苦心の跡を表現しておられます。


余談ですが、「死への密室」にも登場し、


今回キリンさんとお見合いをした新田靖香は、


なんと愛ちゃんの母親になってしまいます!


(そういえば「死への密室」も事件にならないうちに愛ちゃんが阻止してしまったなあ…)