「巫女の館の密室」 愛川晶 光文社 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

美少女代理探偵・根津愛が、刑事・桐野と訪れた奥会津の秘境にある友人の別荘。

そこには、急斜面をくりぬいて作った奇妙な離れがあった。

十年前、このコンクリートの箱のような建物で不可解な密室殺人事件が起きたという。犯人はどうやって脱出したのか?

この謎が解けないうちに、突然愛が失踪! 愛を捜す桐野の前に新たな惨劇が…。
「完璧な密室殺人」に挑む本格ミステリ。



巫女の館の密室―美少女代理探偵の事件簿 (光文社文庫)



※ねたばらしありの感想です。未読の方はご注意を。





密室トリック自体は少々分かりづらいです。


元々、僕は密室を作るための(作為的な)奇妙な館というのはあまり好きではないのです。


どんなことでも出来てしまうだろうというのもその理由のひとつですが、何より視覚的に理解しづらいのですね。




建物をトリックに利用する場合は、その構造がしっかり読者に伝わる形を取るべきだと思います。


密室トリックはさておき、古代インカ帝国の寓話と現実をリンクさせたプロット自体は面白いと思いました。


古代インカの歴史に興味がある人は、ミステリということをさておいても、なかなか面白いかもしれない。



特に、


トレバレーション(開頭術)を利用して、


自分を死体と誤認させるトリックにはゾッとさせられましたね。


そもそも僕は「痛いハナシ」は苦手ですし…。



このシリーズはトリックそのものもかなり凝っているのですが、


主人公である美少女代理探偵のキャラクターにも力点がおかれています。


本作では、その美少女代理探偵が他の事件の後遺症からか、

(「堕天使殺人事件」です)


元気がないのが気にかかるところではありますが…


まあその分、ワトソン役のキリンさんが活躍しているのでヨシとしましょう。


たまにはキリンさんも愛ちゃんの前でいいところを見せないと。



「トレバレーション=ボディアート」説や、


「開頭術によって常人を超える想像力を得る代わりに幼児逆行するというタワンティンユースの文明のアンバランスさ」などという、


歴史解釈もなかなか興味深く、楽しみどころの多い作品でした。