「シュレーダーの階段」 小島達矢 双葉社 ★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

「脱出」
加奈美は誘拐され、ある部屋に閉じ込められた。
突如、禍々しく赤い数字がカウントダウンを始め、誘拐犯がゲームを出題する。
このゲームを解かねば、殺される。でも、なぜ誘拐犯はこんなことを?
死に物狂いで脱出を試みながら謎を解く加奈美が行きつく結末とは。
「侵入」
中学生の内海は、あるマンションの一室に侵入していた。
仲間のうちの一人は、内海の身代わりとなり、眼前で命を脅かされることに。
その時、部屋の中で異様な仕掛けが見つかり……。


シュレーダーの階段




タイトルの「シュレーダーの階段」はとても有名な騙し絵である。



左下の面を手前に見るか、右上の面を手前に見るかで階段が変わって見える(後者の場合、登れないので階段として成立していないが)絵のことである。


正直、僕はいつ見てもフツーの階段の絵にしか見えない。


視覚的な柔軟性がないのだろうなあ……。



それはともかくとして。



「騙し絵」をタイトルにした作品だけに、どんな騙しの仕掛けがあるのかと、ワクワクしながら読み進めた。



ストーリーは、ふたつの物語を軸にして進む。


ひとつは、少女が閉じ込められた部屋からゲームをクリアして脱出する、いわゆる「デス・ゲーム」もの。


2時間以内にミッションをクリアしないと待っているのは「死」だ。


もうひとつは、同級生をいじめている少年たちの話。彼らはいじめられっ子の姉の部屋に侵入し、傍若無人に振る舞っていたところ、監視カメラを発見し恐慌をきたす。



※ここからはちょっとねたばらしがはいります。





……正直、何が書きたかったのだか、まったくわからない。


「脱出」のミッションをほぼ力業で解決するところがまったくもって面白くない。

(最後のミッションだけは本来の「智のゲーム」で面白かった)


そもそも、「オーダーメイド誘拐サービス」ってなんだ。


別に、このデスゲームが本物ではありませんでした、というオチそのものはまあ、いい。


それならそれで、説得力のある設定を。



さらに言えば、このパートってなんのためにあるの?


遠藤と加奈美の出会いの演出?

(だったら、これほど無意味に凝る必要はないでしょう)


このデスゲームを描きたかったなら、それはそれでこっちだけに集中すれば?


少年たちのパートとの関連性にまったく意味がない。



これほどモヤモヤする読後感もそうはない。



少年たちと遠藤のつながりって何?


そもそも「いじめ」を要素に入れた意味って何?


監視カメラ……意味ある?


彼氏、そんなに簡単に戻ってこれるなら……最初からいなくなる意味って?


風呂場に隠れていた意味ある?

どっかホテルにでも一時的に隠れていれば?



……いくらでも疑問はある。



このふたつのストーリーの時間軸がずれているという叙述トリックにもまったく意味がない。


だって、全然別のハナシじゃん、これ。


関連するストーリーが同時並行的に進んでいたと思ったら、実は時間が一年ずれていました、


だから、驚くのであって、


全然関係ないふたつの話が、実は一年ずれていました、


であっても、


だから何?



「騙し絵」の名をそのタイトルに採用しているのにもかかわらず、



「騙し」の要素ゼロ


あ、それとも、「誇大広告が騙しの要素」ってことなの?



と、皮肉のひとつの言いたくなるくらい、しょぼい小説でした。