「首折り男のための協奏曲」 伊坂幸太郎 新潮社 ★★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

首折り男は首を折り、黒澤は物を盗み、小説家は物語を紡ぎ、あなたはこの本を貪り読む。

胸元えぐる豪速球から消える魔球まで、出し惜しみなく投じられた「ネタ」の数々! 「首折り男」に驚嘆し、「恋」に惑って「怪談」に震え「合コン」では泣き笑い。

黒澤を「悪意」が襲い、「クワガタ」は覗き見され、父は子のため「復讐者」になる。

技巧と趣向が奇跡的に融合した七つの物語を収める、贅沢すぎる連作集。



首折り男のための協奏曲




伊坂幸太郎の物語は、読み終えた後に胸の中に気持ちの良い風が吹く。


「首折り男」なんていう、物騒なタイトルなのに、物語のなんて楽しげなことか。



ああ。


面白い小説というのは、本当にただただ面白いというだけで十分なのだなあと思う。



すごいなと思うのは、ここに収録されている短編がすべてバラバラに発表されているということだ。

伊坂幸太郎さんのあとがきを引用すると……、


ひとつにまとめることは念頭になかったのですが、改めて並べ直し、手を加えていくと、緩やかに繋がりができ、「首折り男なる人物の話であったものが、いつの間にか黒澤という泥棒の話に変化していき、それがまた首折り男に繋がり」という不思議な本になりました。


とのこと。


少し手を加えただけで、まるで最初からそうであったような連作短編集の出来上がり。

(いや、そんな簡単ではないだろうけれど)

感動的ですらある。


伊坂幸太郎さんお得意の、各短編がリンクする仕掛けもあって……大満足。

伊坂ファンなら、絶対に読むべき!!



「首折り男の周辺」

首折り男と、首折り男にそっくりだけど臆病で損ばかりしている男と、それからいじめに遭っている少年の話。

プロの殺し屋のくせに、きまぐれに人の役に立ちたがる奇妙な首折り男。

この首折り男エンディングは、最後の一篇「合コンの話」のエンディングにつながります。


「濡れ衣の話」

子供を自動車事故で亡くしその加害者をつい殺してしまった男と、首折り男の話。

またしても首折り男は、気まぐれで人助けをする。

時空のねじれなんてあるわけはないのだけれど、それでも少年であったときの首折り男とのキャッチボールの約束が果たされるといいのになあと思わずにはいられない。


それにしても、首折り男にも子供時代はあったのだなあ。

当たり前か。


「僕の舟」

平々凡々とした無風の人生を送り、今や夫の介護だけが日課という老妻の若き日のロマンスと、黒澤の話。

可愛らしい恋の物語で、僕はとても好きだ。


そんな偶然あるかボケー!


と叫びたくなるところではあるが、こういう偶然があったっていいだろう。

こじつけだろうが何だろうが、元素記号の並びはたぶん嘘じゃないんだ。水兵リーベ……。


「人間らしく」

クワガタのブリーダーをしている作家と、黒澤の話。

人間生きていれば、「神様なんていない」と思う場面にはよく遭遇する。

神様が本当にいるのならば、ホームからうっかり落ちてしまった人を助けようと思った人が電車に轢き殺されたりするはずがない。


でもまあ。

そのとき、神様はきっと隣の部屋で小説でも書いていたのだろう。

神様なんぞ、その程度のものだと思っておけば、間違いはない。


「月曜日から逃げろ」

テレビプロデューサと、黒澤の話。


久しぶりに伊坂幸太郎さんだなあ、という感じ。

ご本人はこういうタイプの作品から脱却したいという思いはあるのかもしれないが、オールドファンはこういうのがたまにあると嬉しいと思う。

「ラッシュライフ」のような。二度読み必須です。


「相談役の話」

クワガタのブリーダーをしている作家と、そのいけ好かない友人と、彼にまつわる怪談の話。

珍しく、怪談です。最後の写真は想像するとちょっと怖いかな。


「合コンの話」

伊坂幸太郎さんらしいという意味では本作が一番かもしれない。


「僕の舟」で黒澤が語っていたエピソードはこれか、と思う。

さらに、首折り男の話にもつながっていく。


そういう意味でも短編集の最後にふさわしいし、読後感の良さという意味でも、これが最後でよかったと思う。




「思い出は別に、時間とは関係がない」

(「僕の舟」で「黒澤さん、馬鹿にしているんでしょ。たった八時間の思い出を、五十年経っても大事にしているなんて」と言ったことに対して黒澤が)