僕は三田村誠、中学一年。父と母そして妹の智子の四人家族だ。
僕たちは念願のタウンハウスに引越したのだが、隣家の女性が室内で飼っているスピッツの鳴き声に終日悩まされることになった。僕と智子は、家によく遊びに来る毅彦おじさんと組み、スピッツを誘拐したのだが…。
表題作以下五篇収録。
記憶違いでなければ、僕が最初に読んだ宮部作品だと思います。
この作品がもしつまらなかったら、僕はミヤベさんの数々の傑作と出逢えなかったかもしれません。
(そんなことないか)
ミヤベさんは基本的には長編の作家だと思っています。
人物のひとりひとりを丁寧に掘り下げていって、徹底的に物語の世界を作りこみ、淡々と、だけど激しく読者を物語世界に引きずり込んでいく。
そういう作家さんだと思っています。
だからと言ってミヤベさんは短編を不得手とするわけではありません。
長編とはタイプが違うけれど、スパッと切れ味の鋭い作品を作り出す名手なのです。
この作品集はそんなミヤベさんの持ち味が十二分に発揮された一冊。
誰にでもお勧めできる一冊です。
※ねたばらし感想です。
「我らが隣人の犯罪」
痛快といえば痛快ですね。
ただ、最後にミリーの首輪からダイヤモンドが出てくるのは蛇足ではないでしょうか。
「ミリーの鳴き声に迷惑しているから、攫ってきて、本物の犬好きの人にあげちゃえ」っていうのはすんなりと受け入れられるんですよね。
でも、そのミリー強奪作戦の途中で、見つけた脱税の証拠で、相手を強請っちゃったり、ついでに嫌われ物の看護婦さんを巻き込んじゃったり、これはちょっといただけないかな、と。
ここまでくると悪意を感じる犯罪になってしまう。
明るいキャラクターと軽いタッチの文体でそれを包み隠そうとしているのかもしれませんが、かえってそれが対比になってしまい、逆に嫌な感じを与えます。
ところが、せっかく受け取った身代金はなんと五万円。これでしっかりとオチがついて良かったのかなと思うところに、ダイヤモンド。うーん。やっぱり蛇足だよなあ。
「この子誰の子」
伏線の張り方、オチが絶妙です。わかりやすいですけどね。
「サボテンの花」
この短編集で、いや、数あるミヤベ作品の短編の中で、一番気に入っている作品かもしれません。
サボテンのテレパシーのトリックが、奇術のワン・アヘッドというのは何ともオソマツで拍子抜けしますが、まあ、これは小学生の考えることですから仕方が無いと言えば、仕方が無い。
この作品の魅力は、やはり子供達。そして子供達を信頼して見守る、権藤教頭と秋山徹。
実はこの子供達、あまりセリフもなければ登場シーンも少ない。
子供達の武勇伝もトリックも、ほとんど教頭先生や徹の口から語られる。
にもかかわらず、子供達がとても魅力的な悪ガキどもに見えるってことは…やっぱり彼ら二人が子供達を愛しているからなのでしょうね。
「私だってサボテンだ」と、厳かに宣言した。
だいぶ刺は抜けている。水分も減って、活力も失せてきた。だがそれでもサボテンだ。剪定されることはない。
「祝・殺人」
殺人者である娘婿をかばう義父っていうのはどういう心境なのだろうなあ、と思いました。
ましてや死体をバラバラにするのまで請負って!
有り得るのかなあ、なんて思ったんですけど、ああなるほどという感じですね。
バラバラ死体を作り出す「ホワイダニット」に説得力があります。
「気分は自殺志願」
ずっとどんでん返しがあるのかなあ、なんて思って読んでいました。
だってものの味が全てゴミのように感じられる病気なんて聞いたことなかったんだもの。
きれいにスッとまとまった作品ですね。