エリート医師が、鏡に囲まれた部屋で自殺した。
その後、医学部受験を控えた一人の青年が失踪した。
正義感に溢れる検事・志藤清正は、現場の状況から他殺の可能性を見破り、独自に捜査を進める。
その頃、東池袋所の刑事・夏目信人は池袋の町を歩き、小さな手がかりを見つめていた。
二転三転する証言のなかで、検事と刑事の推理が交錯する。
あけましておめでとうございます。
新年の一冊目。
一年の計は元旦にありと申しますが……この一冊が今年の読書運を占う一冊だったら……いやだなあ。
※ねたばらし&低評価の感想です。読み飛ばし推奨。
一言で書けば、
「好意を寄せている人の殺人を知ってしまったが、彼女が自殺するのが嫌で逮捕させるように仕向けた。そのあと、落ち着いたところで自分が罪を被るために自首するつもりだった」
ということ。
もちろん、一言で書いてしまえばどんな小説だって面白く感じられない。
これを巧く書けば十分に面白いサスペンスになり得ると思う。
でも。
薬丸岳はもっと巧い作家だったのでは……?
これではまるで、素人の応募作だ。
物語は夏目刑事と、敏腕検事の志藤の両方が別々の観点から事件を見つめていく。
そこに、逃亡中の幹夫が加わって、三つの視点で物語は進行する。
それがまったくもって読みづらい。
事件を多角的な視点で描いていき、まったく別々のものに思えていたピースがひとつに収束するのがこういう書き方をするときの魅力だ。
でも、それの魅力がまったく出ていない。
何が何だかわからなかったモザイクが一枚の絵として成立するときのカタルシスがこの作品にはない。
真相を小出しにしていくタイミングや謎の引っ張り方が下手だから、途中でなんとなく想像がつく。
さらに、タイトルにも使われている「鏡」が物語にとってはまったく要らない小道具だったとか、「拾ったばかりのネコのために怒っていたわけ?」とか「だったらもっとネコを大事にしているというような伏線張っとけよ」とか、細かく、いらっとするポイントが多い。
薬丸岳だからって安心して読み始めたのだけれど……ハズレもあるのだなあ。