「紙の月」 角田光代 角川春樹事務所 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

わかば銀行から契約社員・梅澤梨花(41歳)が約1億円を横領した。

梨花は発覚する前に、海外へ逃亡する。梨花は果たして逃げ切れるのか?

自分にあまり興味を抱かない会社員の夫と安定した生活を送っていた、正義感の強い平凡な主婦。

年下の大学生・光太と出会ったことから、金銭感覚と日常が少しずつ少しずつ歪んでいき、「私には、ほしいものは、みな手に入る」と思いはじめる。夫とつましい生活をしながら、一方光太とはホテルのスイートに連泊し、高級寿司店で食事をし、高価な買い物をし……。

そしてついには顧客のお金に手をつけてゆく。


紙の月


原田知世さんの主演でドラマ化するそうですね。


僕は小説のドラマ化にはどちらかと言えば否定的です。


それがどれほど面白かったとしても、原作の面白さを超えるものではないから。


もしも原作よりもそのドラマや映画、アニメが面白いのだとしたら、それはもとの小説が未完成だということなのではないかと思っています。

完成された作品は、決して他の形で再表現することはできないはずだと、過去の経験から確信しています。


特に実写化される場合は、あまりにも、作品のイメージとかけ離れたキャスティングがなされることが多くて、がっかりします。


もちろん、キャラクターのイメージというのは(挿絵でもない限りは)人それぞれなので、僕が違和感を覚えるからと言って、誰もがそうだとは思っていませんが……そういうパターンはとても多い。


でも、本作に関してはキャスティングは問題ないと思います。


原田知世さん。


清潔な石鹸のようなかわいらしさ。

派手さはないが美人。

目立つタイプというのではないが、よく見るととてもきれい。


主人公の梅澤梨花は、周りにそう評される女性ですから。



そんな梨花が、少しずつ少しずつ、堕ちていく様子が愚かしくて、でも切なくて。

ページをめくる手が止まりませんでした。


急転落というのであれば、傍目にも自分自身にもわかる。

自分が堕ちているという実感もある。


でも、少しずつ、少しずつ、深みに嵌まっていくと、堕ちている実感はなかなかわかない。


どこで引き返せば助かったのか、それは梨花にもわからないし、読んでいる僕にもわからない。


梨花はどのような人生を歩んでいても結局、自分はこうなってしまったのではないかとわが身を振り返るけれど、つまりはそういうこと。

どこがターニングポイントになったかわからないんだよ、この物語は。


気がついたら、もうどうにもならなくなっていた。

そんな感じ。


梨花はとてもとても愚かで、思慮が浅かったけれど、もともと彼女はそんなタイプではなかった。

正義感が強く、自分のことを自分でしっかりと意思を持って決められる人だった。


それがどこでどうなってしまったのか。


「私をここから連れ出してください」


梨花のその言葉は心からの叫び。