「キングを探せ」 法月綸太郎 講談社 ★★★☆ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

シャッフルされた犯行の行方は?
完璧な交換殺人を目論む男たちに、綸太郎の頭脳は勝てるのか。
奇妙なニックネームで呼び合う4人の男たち。なんの縁もなかった彼らの共通項は“殺意”。
どうしても殺したい相手がいる、それだけで結託した彼らは、交換殺人を目論む。

誰が誰のターゲットを殺すのか。それを決めるのはたった4枚のカード。

粛々と進められる計画に、法月警視と綸太郎のコンビが挑む。



キングを探せ (講談社ノベルス)




※少しだけねたばらしがあります。未読の方はご注意を。



冒頭から犯人たちが登場する。

四人の男たちによる交換殺人であることが最初から読者には明かされている。

カラオケボックスの中で、4枚のカードを使って、誰が誰を殺すのかを決める男たちの姿は、滑稽に思えるし、滑稽であるがゆえに不気味でもある。


これはいわゆる「倒叙もの」というやつだなと思う。


四人による交換殺人というトリックも割れているわけだし、誰が誰が殺すのかという組み合わせもわかっているし、第一の殺人にいたっては殺害状況の描写もきっちりされている。


だから、綸太郎がなかなか真相にたどり着かないのには少しばかりイライラする。


ことに、法月綸太郎という探偵はシャーロック・ホウムズやエルキュウル・ポワロのような完璧な名探偵ではなく、普段から割合、間違った推理を披露するものだからなおさらだ。

(最終的には正解にたどり着くとしても)


いや、そうじゃないんだよ。

この犯人チームは四人いるんだよ。

まだキングがいるんだ。


そんな風に思ってしまったら、それはもう作者の術中にはまっている。


倒叙タイプの作品を読んでいたはずなのに(つまり、読者はすべて正解を知っていたはずなのに)、いつの間にか、綸太郎に追い越されている。


あれ?

どうして?

何がどうなっているの?


そんな疑問が浮かんで、ついページを戻ってしまうこと請け合い。

トリックそのもの(というか、四人の関係性そのもの)が複雑なので再読は必須かも。


倒叙ミステリに本格ミステリのトリックを融合させるという見事な一作である。


そもそもタイトルがズルイ

読者は本を手に取った時点ですでに作者の罠にかかっているのだ。




ただ、無関係の人間による四重の交換殺人という、普通に考えたら絶対にわかりえないだろうというトリックを仕掛けてしまったがゆえに、それが露見するきっかけを「犯人のうちの一人の事故死」という偶然のアクシデントにせざるを得なかったあたりが、やや苦しい。


もちろん、そこにも「泥棒対策の偽札」という小道具を用意して、単純な事故死ではない演出をしているのだが、それでもやはり。


完璧な犯罪(トリック)を構築してしまうと、ミステリとして成立しないし、中途半端なトリックでは小説が面白くならないし。そのあたりは永遠のジレンマなのだなあ。