「ゲームに参加するだけで三万円」という幼馴染み・喬子の誘いを受け、新作の体験型ゲームに参加することにした高校生の加奈。
集まった9人は、AR(拡張現実)が用いられた館で、謎解きやバトルなどミッションに挑んでいく。
加奈は喬子と連絡をとりながらゲームを進めるが、次第にある違和感を抱きはじめ…。
現実世界と仮想世界が混在する奇妙な館で、恐怖の二日間がはじまった。
「バトル・ロワイアルと言えば……」
「高見広春の小説が思い浮かぶよな」
「だよね。あの凄惨な殺し合いの小説……」
「そう。タイトルがほぼ同じだからって、それを期待して読むと、とても拍子抜けする」
「うん。それほどこの作品は牧歌的なんだよね」
「スリルという意味ではまったく期待はずれだよな。ハラハラする場面はとうとう最後までなかった」
「あらすじには『恐怖の二日間』なんてあるけど、全然恐怖なんてないよね」
「バトル・ロワイアルの前に『推理』って付いてるだろ。本当にこの小説は推理を戦わせるだけの作品なんだよな。安易に人を殺すことで、無理やり話を盛り上げようとする小説なんかより、よっぽどマシだと思うけどね」
「そうだね。こういうタイプのミステリだと簡単に1ダース以上の人が死ぬことが多いよね。大金を賭けて、人々が殺し合いをするというようなミステリはとても多い」
「この作品だと……手にできる金額もせいぜい一か月分のアルバイト代程度。いや、もちろん二日間で稼げるって考えりゃ実入りは全然悪くないけどな。ほのぼのした印象はあるよな」
「そういうものだと思って読めば、悪くない。大量に人が死ぬパターンでも面白いものはあるけどね。本家の『バトル・ロワイヤル』だって面白いし」
「他にもたとえば、米澤穂信さんの『インシテミル』は名作だなと思うしな。あ、もちろん原作のほうね。映画のほうはひどかった」
「確かに……世間的にもあれは評価は低いようだけど」
「でもさ、本作はさ、逆に映像化したほうが面白いんじゃないかと思わなかったか?」
「思った。ARを利用したゲームをするのならば、それはやっぱり映像で見せるべきじゃないかなあ。そっちのほうが面白いかどうかはともかく、わかりやすいのは間違いないんじゃないかな」
「ここまで自由度の高いARはまだ実現性が低いかもしれないけれど、これに近いことは今でも十分できている。近未来どころか、来年くらいのハナシとしてあり得るレベル。
ならば、小説でも映画でもなく、実際の体感型推理ゲームとしてつくっちゃうのもありかもな。ちょっと推理の難易度は高いかもしれないけれど、昔はこのくらいのレベルの(PCの)アドベンチャーゲームがいくらもあったものな」
「それは面白い」
「小説としては、一応、ゲームの裏に隠された製作者の意図がラストでわかり、すこしばかり意外な展開を見せるけれども……」
「まあ、おまけみたいなものだよね。やっぱりこの小説はゲームか映画にでもしたほうが面白かったんじゃないかなー」