「超巨大密室殺人事件」 二宮敦人 角川書店 ★★☆ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

超人気オンラインゲーム「サンド・ランド」。

仁菜の友人の照は、ゲームと現実の区別を失う程ゲームにのめり込み、ゲーム内で恋人が殺されたと泣き喚く。

顔面を破壊する凄惨な連続殺人が世間を騒がす中、照を心配してゲームに参加した仁菜はやがて、この連続殺人とゲーム内で頻発するプレイヤー殺しの共通点に気づく。

二つの殺人事件が交錯し、浮かび上がる驚愕の真相とは?

ゲームと現実が混ざり合う、戦慄のサスペンス・ホラー。


超巨大密室殺人事件 (角川ホラー文庫)


とりあえず、ホラーではないわなあ。

角川ホラー文庫の「ホラー」の縛りってユルいんだよね。


まあ、それはともかく。


本作に出てくるネット廃人(でも現実世界では超がつくくらいの金持ち)の照は、現実世界とゲーム世界、どちらに重きをおこうとそれは個人の勝手だと言う。


十分すぎるくらいの財産を手に入れ、勝者となった照にとって、現実世界は魅力的なものではなくなってしまった。やりこんで何度もエンディングを見てしまったゲームのように。

それよりも、ハラハラドキドキする冒険やキャラクターたちの絆が存在するゲーム世界のほうが、よっぽど魅力的なものに感じる。

だったら、ゲーム世界のほうを現実として考えて何が悪い?

それが照の論理だ。


僕もゲームは好きだけど、大人になってからはさすがにあまりやっていない。

ゲームがくだらないものだとはちっとも思っていないけれど、コツコツやる根気が歳をとってからなくなってしまった。ゲームは友達とワイワイやるから面白いんだよなあとも思う。


最近の携帯アプリにはずいぶん課金させるようなものも多いようだけれど、さすがにゲームのアイテム(ただの電子データ!)にお金を払う気はしない。


でも、それが現実の買い物と同じ価値を持つ人もいるんだなあ……。


そして、この物語に登場する人々は、仁菜を除いてみんな、ゲーム世界のほうを「リアル」にしたいと願っている人たちばかり。


照はゲーム世界で知り合った女性のキャラクターと結婚し子供をつくりたいと思っていた。(このゲームにはそういうイベントもあるのだ)

洋治も照と同じように現実世界での生活の心配はなく、このゲームに人生を賭け、ナンバーワンになりたいと努力している。

Jティスはこの世界の王であり、支配者になりたいと願っている。


現実で好きな女性と結婚したいわけではない。

現実で名声を得たいと思っているわけではない。

現実で出世がしたいわけではない。


それをゲームの世界でしたいと思っているのだ、彼らは。


それを理解できず嘲笑するのならば、この作品を受け入れることはおそらく難しい。


ゲーム内で他キャラクターを抹殺し続ける「マーダー」と呼ばれるキャラクターも、現実世界で連続殺人を行っているシリアルキラー「顔無し」の動機もたぶん理解できない。



※ここでちょっとねたばらし。



Jティスは「マーダー」を使って「サンド・ランド」に混沌をもたらし、それを正す正義の味方としてこの世界に君臨しようと画策していた。いわゆる“マッチポンプ”だ。

さらに、そのための予行演習として現実世界で連続殺人を行っていたのだ。

現実の殺人の予行演習としてゲームを使うのではなく、「ゲームの世界の殺人」のために「現実世界で人を殺していた」のだ。


受け入れられるか?

僕には無理だった。


それが受け入れられる人ならば、おそらくこの物語を楽しめるのだろう。