「三毛猫ホームズの狂死曲」 赤川次郎 角川書店 ★★★★ | 水底の本棚

水底の本棚

しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

「命が惜しかったら、演奏をミスするんだ」
権威あるバイオリンコンクールに挑む優勝候補の一人、桜井マリにかかった脅迫電話をひょんなことから片山刑事の妹晴美が受けてしまった。
最終選考に残った七人の男女は東京近郊の別荘で一週間外部との連絡を絶たれて課題曲と取り組むことになった。
殺人、自殺未遂、放火、地震、奇妙な脅迫。次々起こる難事件を片山、いやホームズはどうさばくのか?



三毛猫ホームズの狂死曲(ラプソデイー) (角川文庫 (6248))



「三毛猫ホームズ」シリーズでは毎回、片山刑事に言い寄るヒロインが登場します。

その中で、僕は本作の桜井マリが一番好きです。

トリックもまあまあ綺麗にまとまっていて良いと思いますが、本作の読みどころはやっぱり、音楽に青春を賭けた若者たちの葛藤ですね。


「何だね、一体?」
朝倉の問いには答えず、四人は、古田と辻紀子の後ろに回って、並んだ。そしてヴァイオリンを構えると、弓を当て、マリが肯いてみせるのを合図に、一斉に弾き出した。――メンデルスゾーンの<結婚行進曲>だ。


これを聴いた晴美が「素敵ねえ、音楽って!」と言いますが、僕も同じ感想を抱きました。百万の言葉よりも、ひとつの音楽が多弁に心を語ることがある。それはとても素敵なことですね。


「僕には音楽のことはさっぱり判らないけれど……君は、モーツァルトとかベートーヴェンとか――」
後が出てこない。

「そういう人の音楽が好きなんだろう? だったら、弾くんだ。君は才能があって、その音楽を人に広める力があるんだからね」
片山は少し間を置いて、
「音楽をやる人間が悪いことをしたり、間違ったことをしても、それは、モーツァルトやベートーヴェンが悪いんじゃないさ。そうだろう?」


格好良いですね、片山刑事。少々、気障ですが。

でもその片山のおかげでマリの演奏に変化がでます。今までなら決して出せなかった、そんな音を出せるようになります。


スタンウィッツが何か呟いた。
朝倉が、そっと言った。
「彼女は恋をしている、とさ」