四国山中に孤立する芸術家の村へ行ったまま戻らないマリア。
英都大学推理研の一行は大雨のなか村への潜入を図るが、ほどなく橋が濁流に呑まれて交通が途絶。
川の両側に分断された江神・マリアと、望月・織田・アリス。
双方が殺人事件に巻き込まれ、各各の真相究明が始まる。
読者への挑戦が三度添えられた、犯人当ての限界に挑む大作。
※感想にはねたばらしが含まれます。
「あの夏」の傷をまだ癒せぬまま旅に出たマリアが迷い込んだまま戻ってこない木更村。
英都大ミス研の面々がマリアを連れ戻すために奔走する。
読者への挑戦が三度も挿入される正統派ミステリ。
真正面から読者のバットをへし折ってやろうと全力で投げ込まれる直球は気持ちが良い。
パズラーという言葉はこういう作品のためにあるのだろう。
今回は江神さんとマリア、そして残りの三人というグループ分けになっているが、前作でまったく出番のなかったモチ、信長も探偵役として活躍をする。
(こちらは三人よれば文殊の知恵、というところだろう。三人でやっと部長一人分の働きか?)
交換殺人という手法はもはや手垢のついた題材だ。
だが、殺人者Aと殺人者Bをつなぐ殺人プロデューサーXが登場するところに本作の真新しさがある。
隔離された場所で起こる二つの殺人。
それを繋ぐ人物の悪魔のような所業を鋭利な言葉で断罪する江神部長の解決編は、マリアならずとも怯えがくるくらいに鋭い。
本作最大の見せ場。見事な着地で、この長大な物語を締めている。
本格ミステリの定義とは……とよく問われることがあるが、それを知りたければ本作を読めばいい。
これが「本格ミステリ」というものだ。
純粋なるパズラーを物語として昇華し、ていねいにていねいに描いていくとこういう本になる。
この本は無駄に厚いのではない。
これだけ長い物語になるのには必然性があるのだ。
「こんなことはもうやめるんだ。君はどこまで自分を粗末にしたら気がすむんだ」
「アリスが一番心配してた」
江神さんは足許の石を川に蹴り落としながら言った。
「私もアリスのことが一番心配でした」
そう返すと、「何を言うてるんや」とおでこを押された。