「リターン」 五十嵐貴久 幻冬舎 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

狂気のストーカー・リカ復活!
復讐を誓う、二人の女刑事との戦いの行方は?
第2回ホラーサスペンス大賞受賞、30万部突破のベストセラー「リカ」続編。

高尾で発見された手足がない死体、それは、10年前に狂気のストーカー・リカに拉致された本間だった。
十年間リカを追い続けたコールドケース捜査班の尚美は、同僚の孝子と共に捜査に加わる。
姿を現さないリカに手をこまねいていると、孝子が恋人である捜査一課の刑事・奥山と連絡がとれないという。
彼の自宅で二人が見たものは……。
復讐に燃える孝子に手を貸すことを決めた尚美は、メールでリカをおびきよせることにするが、それは、新たな惨劇の幕開けなのか!?



リターン



「あの『リカ』の続編なんだね」


「そうなんだ。まさかあの『リカ』に続編があるとは思わなかったから、まずそのことに驚いたな」


「『リカ』は衝撃的だったものね。ストーリーもさることながら、リカの異常性と執念、執着、過剰な愛……そういうものに恐怖したよ」


「もともとは出会い系サイト。単なる火遊びのつもりで始めたことが地獄への入り口になるという……恐ろしいよな」


「他人事とは思えない?(笑)」


「アホか。そんなことより、『リターン』だよ」


「リカは生きていたんだねえ。まあ、生きていてもおかしくはないとは思うけれど。銃弾ぶち込まれても平気で逃げ出すのだから」


「リカが本間をさらってから十年後。本間の死体が見つかるんだ。手足も顔のパーツもない状態でな。そして恐ろしいことに、本間が死んだのはつい最近のことだとわかる」


「本間は十年間、地獄のような時間を送っていたんだね。むしろ、本間が正気を保っていられなかったらよいのに…と願わずにはいられないよね」


「ああ。正気で耐えられる話ではないからな……。本間にとっては地獄だったかもしれないけれど、リカにとっては蜜月とも言える本当に幸福な十年だったようだな」


「“恋人”であった本間が亡くなって、リカにとっての幸せな時間は終わった……そうすると?」


「そうだ。リカは愛すべき対象を失ったのなら、必ず次を探そうとする。本間に代わる、恋人を求める。それがまた次の悲劇を産むんだ」


「ありえないよね……。警察は断固、それを阻止しなければいけない」


「そうだな。本作は前作と違って、被害者とリカの物語ではなく、警察とリカの戦いの物語なんだ。主人公は、リカに復讐を誓う二人の女刑事。彼女たちの復讐心が勝つか、それともリカの執念が勝つか……それがこの物語の眼目だよ」


「そのぶん、リカの恐怖が薄れたような気がするという評価になっているみたいだけど」


「ああ、そうかもしれない。リカに狙われる人間の視点からではなく、リカを追う側の視点から描いているわけだから、どうしたってリカの恐怖は前作ほどは感じられない。それが、不満という人もいるかもしれないけど」


「なるほどねえ」


「女は強いし、怖い。前作でリカと対峙するのは被害者も刑事も男だった。最初から勝てる見込みのない戦いだったよ。今回、リカと戦うのは復讐心に燃えた女性だよ。それでやっとはじめてリカと伍して戦うことができる」


「そうか……物語の顛末がどうなるか楽しみだな」


「迫力という意味では前作を凌ぐものではないよ。やっぱり、期待感が高いからかな、そのぶん肩すかしを食ったような気にならざるを得ない……かな?」


「そうなのか……」


「たださ。ラストはちょっと見ものだぜ。やっぱり愛情っていうのは、結局、身勝手なものなのかもな、って思う」


「何それ?」


誰でもリカになる可能性があるってこと」


「ないよ、そんな可能性!」


「あるさ。ないと思うなら、本作を最後まで読んでみるといい。納得できるだろうから」


「思わせぶりなこと言うなあ……」