「福家警部補の挨拶」 大倉崇裕 東京創元社 ★★★☆ | 水底の本棚

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現場を検分し鑑識の報告を受けて聞き込みを始める頃には、事件の真相が見えている?

おなじみ刑事コロンボ、古畑任三郎の手法で畳みかける、四編収録のシリーズ第一弾。


福家警部補の挨拶 (創元推理文庫)


「刑事コロンボ」はほとんど観たことがありません。高校のクラスメイトが好きでよく話はしていましたが、僕らの世代からはちょっと外れているのです。

最近の倒叙型ミステリドラマの傑作と言えば、三谷幸喜の「警部補古畑任三郎」でしょう。

本作の福家警部補はこのコロンボや古畑任三郎の正当な後継者です。

とても刑事には思えない型破りなところ、マイペースな捜査方法、私生活が見えないところ、卓越した注意力と観察眼など、いずれも彼ら三人に共通しています。

「古畑」の大ファンだった僕は本作もとても楽しく読みました。

一気読みが勿体なくて三日もかけてしまうほど。ストーリー云々でなく、この正統派倒叙ミステリというスタイルが気に入りましたね。


倒叙型ミステリではついつい探偵役よりも犯人のほうに感情移入してしまいますが「最後の一冊」は特に。

図書館を守りたいという崇高な気持ちは大切にしてあげたいし、本を大事に扱ったがゆえに犯行が露呈したという点も同情的。


「オッカムの剃刀」は逆にあまり犯人に同情したくはないですね。

被害者もあまり気持ちのいい人間ではありませんが殺されるほどのことではないですし。
それにしてもこの二段構えの仕掛けをあっさり看破した福家警部補はお見事。

策を弄すれば弄するほど露見しやすくなるという好例でしょうか。


「愛情のシナリオ」は故障したライターという偶然のトラブルが最初の破綻。

これはちょっと可哀相かも。

ただ…彼女の犯行は見破られたけど、本当に守りたかったものは守れたから少しは救われますよね。
携帯電話の伏線はお見事でした。

そういえば…と後になって気がついたけれど、どんだけぼんやり読んでんだよっていう話ですよね。


「月の雫」は居酒屋の名前かと思っちゃった。

というのは冗談だけどこれはちょっと犯行が杜撰かなあ。何か証拠残りすぎっていう感じ?


それにしてもこの四作品いずれも偶然のもたらしたいたずらが犯行露呈のきっかけとか決め手になります。

古畑にもそういうパターンはあるけれど、被害者が残した物言わぬメッセージを福家警部補が見抜くなんていうパターンも読みたかったな。

(「愛情のシナリオ」の携帯電話はそのパターンでもあるけれど)