母校から届いた高校同窓会名簿。
両親から莫大な遺産を受け継いだ鳴沢はすぐさま比奈岡奏絵の項を開いた。
かつて札幌在住だった彼女の連絡先が今回は空欄だった。
その瞬間、彼は強烈に憎悪し、連続殺人鬼と化した。
冷酷の限りを尽くした完全殺人の計画は何のためだったのか?
青春の淡い想いが悲しくも愚かな愛の狂気へと変貌する。
「西澤保彦だね」
「そうだね、西澤保彦だ」
「いつもね、謎そのものとか導入部は本当に魅力的なんだよね」
「基本的にはそうだね。前半はホント、ワクワクさせてくれることが多い」
「ところが、ウルトラCの荒業を繰り出した挙句、見事に顔面から着地するわけだ。
器械体操っていうよりね、走り高跳びに近いよな。飛んでしまえば着地はどうでもいいっていう」
「そうなんだよなあ……。
盛り上げるだけ盛り上げておいて、解決はぐだぐだっていうパターンが多いんだよね。
風呂敷広げ過ぎてちっとも畳めていない。いや、むしろ畳む気ないのかも……」
「まあ……全部がぜんぶ、そうだっていうわけじゃないんだけどね。
ところで、本作はどうだった?」
「うん……いつものパターンに近いかな」
「『えっ! そんな動機で人殺しをするわけ?』っていうパターンのこと?」
「まあそうだね。わりとびっくりした……いい意味ではなく。逆の意味で意外性あるよ」
「ほうほう?」
「ここから先は未読の人は注意な。ねたばらしするよ」
「連続通り魔殺人をするんだよ。自分の不肖の甥っ子と自分に似ている浮浪者を身代わりに用意して」
「何のために?」
「高校教師をしている親友を殺すために」
「何だ? 連続殺人の被害者にその親友を紛れ込ませて目くらましをするってこと? チェスタトンですか?」
「違うよ。それだと最初から身代わりの犯人を用意する必要ないだろ。
そもそも、その親友を殺すことは目的ではない。ただの『手段』なんだ」
「何のための?」
「通り魔殺人の犯人はね、被害者の携帯電話に住所が登録されているうちの一人の人物をピックアップして、その人に被害者を暴行しているシーンを映したDVDを送り付け、脅迫をするんだ。
彼女を殺されたくなければ、身代金として一千万円を寄こせ、とね。
まあ、そうは言ってもそのときすでに被害者は殺されているんだけども」
「だから、それって何のためなの?」
「そしてその連続殺人の果てに、親友が教師をしている学校の女子生徒を殺す。
そして、親友にDVDを送り付けるんだ。女生徒が乱暴されている場所のヒントが映っているDVDをね。
そうすると、親友は女生徒を助けるために間違いなくやって来る」
「まあ、来るだろうね。ふつう」
「そこでその親友を殺す。そうするとどうなる?」
「どうなるって……どうもならんでしょ。
その親友は悲劇の主人公として扱われるかもしれないけれど……。
わが身を顧みずに教え子を救いにきたのに、殺されてしまった悲劇のヒーローだよね」
「それそれ」
「どれ?」
「真の目的はね、その親友の死をマスコミに大きく扱わせること。
それを見て、高校時代に一緒にバンドを組んでいた同級生の女性が自分に連絡してくるかもしれないと期待したんだ」
「は? その同級生の女性に会いたかったわけ? 彼女の消息が不明だから?
そんなに会いたいなら、興信所でもやとって調べた方がいいじゃん」
「それは嫌なんだって。彼女をお金で買うみたいな気がするんだってー。
すごくね? そんな理由で何人も何人も罪もない人たちを殺しちゃうわけさ」
「……なんていうか……西澤保彦でしかありえないような……ある意味びっくりだよね」
「その後、さらに悲劇的かつ意外性溢れるオチがつくんだけどさ……聞きたい?」
「ん……聞きたいようなそうでないような…まあ、やめておくよ(笑)」
「そのほうがいいかも(笑)
そのオチについて言えば、まあ、そうは悪くないのだけど、伏線がほとんどないところがちょっとね。
唐突な感じは否めない」
「西澤節ですなあ」
「計算もなければ論理もない。
でも強引に、そして面白く。動機とオチの意外性パワーだけで勝負。
そういう感じなんだけど、まあそれが狙って作られているわけだから……まあ、いいかという気もする」
「西澤保彦はそういうもんだと思って読んでいるわけだしね」
「そうそう。文句があるなら読むな、ってハナシですよ(笑)」