「小説推理」で好評連載中の「2000字ミステリー」を、一挙まるごと5年分、60編収録。各話は原稿用紙5枚分というお手軽な長さなので、通勤通学の車内でちょこっと開くのにオススメです。
短くても、伏線やどんでん返し、ミスリードの仕掛けありで、これはオイシイ!
「4ページでミステリを……という企画そのものは面白いね」
「ああ。いわゆるショートショートというジャンルだな。もともと蒼井上鷹さんはデビュー作の『九杯目には早すぎる』の中でもショートショートのミステリを書いているから、得意分野のひとつなんだろうな」
「本作にも『九杯目には早すぎる』なんかの既刊からの収録作品も多いね」
「さすがに60編単行本未収録作品というのは厳しかったんだろうな」
「実際読んでどうだった?」
「最初の短編『最後のメッセージ』はおおっと思ったね。アイディアそのものがなかなか秀逸だと思ったし、まともな長さの短編や長編の一部にも使えそうなアイディアを惜しげもなくショートショートに使っているのが贅沢だとも思った。これは期待できるぞ、と」
「ミステリとしてちゃんと面白かったんだ?」
「そうだな。特にファクシミリを使ったトリックが秀逸だと思った。短い中に伏線もしっかり張ってあったし……倒叙型の面白い短編ミステリができそうな気がしたよ」
「いきなり冒頭の一篇のレベルが高かったんだね」
「そうなんだ。そこからは……正直面白いと思えるようなものはあまりなかったな。どれも似たような話と似たようなオチ。あまりにも変化がないので、後半はたった4ページの作品なのに斜め読みになってしまったな(苦笑)」
「でも面白いものもなかったわけじゃないんでしょ?」
「僕はもともと蒼井上鷹さんは短編作家だと思っている。短編の名手だと評価しているわけではないけれど、少なくとも彼の得意分野は長編ではなく短編だと。言い方を換えれば、長編を書ききるほどのアイディアも持っていないし、語り口が巧いわけでもないし、構成力があるわけでもない。今までに読んだ長編作品のいずれもぐだぐだな出来だったしな」
「おっと。何だか厳しい話になったね」
「まあ、事実だから。でもワンアイディアで書ける短編なら割合に読めるんだ。中には愚にもつかないようなものもあるけれど、当たりだってないわけじゃない。60編もあるから途中で厭きてしまったけれど、一編だけを取り出して読んだら、悪くないと思えるものもいくつかあった」
「うーん。誉めているようには聞こえないなあ(笑)」
「いや、誉めていないわけじゃないんだけどな。これさ、一編ずつ読んだら悪くないんだな、たぶん。でもまとめて読むと十把ひとからげの印象が強くなってしまうんだ」
「電車の中で毎日ひと駅ぶん、一話ずつ読んだりするのが正しい読み方なのかな?」
「ま、そんな読み方するヤツはいないだろうけどな(笑)」