「毒吐姫と星の石」 紅玉いづき アスキー・メディアワークス ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

全知の天に運命を委ねる占の国ヴィオン。
生まれながらにして毒と呪いの言葉を吐き、下町に生きる姫がいた。
星と神の巡りにおいて少女は城に呼び戻され、隣国に嫁げと強いられる。
「薄汚い占者どもめ。地獄に堕ちろ!」
姫君は唯一の武器である声を奪われた。星の石ひとつ抱き、絶望とともに少女は向かう。
魔物のはびこる夜の森、そのほど近くの聖剣の国レッドアークに。
少女を迎えたのは、夜の王に祝福を受けた、異形の手足を持つ王子だった。
第13回電撃小説大賞大賞受賞作「ミミズクと夜の王」の続編、登場。



毒吐姫と星の石 (電撃文庫)



「『ミミズクと夜の王』はとても大好きな作品なんだ」


「ああ。確か有川浩さんにハマっているときに、その有川さんが推薦帯を書いているのを目にとめて読んだんだったな」


「うん。『ミミズクと夜の王』はどこまでもまっすぐなんだ。小細工も伏線も洒脱な言い回しもどんでん返しも隠された寓意も教訓もない。ただただまっすぐに進んでいくだけ。それが面白い。楽しい」


「小説が面白いだけのもので何が悪いんだー、か」


「そうそう」


「で、その続編である本作はどうだった? 例の王子、クローディアスが出てくるんだろ?」


「そう。彼と、彼のもとに嫁いでくることになった毒吐姫ことエルザの物語」


「そもそも毒吐姫って何だよ?」


「エルザは口を開けば悪口雑言ばかり。どんな人間にも噛みつく、躾のなっていない野良犬みたいな少女なんだ」


「だって、一国の姫なんだろ? そんなわけあるか?」


「エルザの国は政治と占いが融合していてさ。いや、むしろ占いのほうが優先されているんだな。で、彼女が産まれたときに、凶兆の星を持っているとされてさ、城から捨てられたんだ。だから下町育ち。それこそ野良犬のような暮らしをして育ったんだ」


「一国の姫がかよ?」


「そう。だから彼女は毒を吐く。自分の出自を、運命を、命そのものを呪うようにね」


「それでなんでまたそんなエルザがレッドアークに嫁ぐ羽目に?」


「これもまた占い。それと政治。要は聖剣の国レッドアークとお近づきになっておくことが国の利益につながると…そう判断されたわけ。まあ、要するによくある話の政略結婚だよね」


「それにしてもそんな毒吐きを送りこんだ日にゃ、国交どころか…かえってトラブルの種になりはしないか?」


「そう。そう思ったから毒吐姫には魔法がかけられた。彼女から言葉を奪う魔法をね」


「毒吐きから言葉を奪ってしまったんだ?」


「城から追い出され、何も持っていないエルザから唯一彼女を守る武器だった言葉さえも奪う。そんなひどい話はないよね。これは絶望の物語なのかと思った」


「でも、紅玉いづきさんの作品だからな。そうはならないんだろ?」


「そう。レッドアークにはクローディアスがいる。彼はこう言うんだ。
 『愛すると決めていたんだ。国のすべてを愛するように、君のことを』と」


「エルザには心強い味方だな」


「ま、毒吐姫はそう簡単に心を開きはしないけれどね。でもそこからの展開はまさに王道。エルザはどんどん可愛らしくなるし、クローディアスやアン・デューク、オリエッタたちも楽しい。それから前作のファンにはたまらない人物も登場する」


「まさか?」


「まあ、あとは読んでのお楽しみにしておこうよ。とにかく『ミミズクと夜の王』に負けず劣らずのまっすぐで純粋でキラキラした物語だよ。前作よりもラブ要素強めだけどね」


「アン・デュークとオリエッタを主人公にしたスピンオフ作品もあるんだろ。文庫化が楽しみだな」