三年前に発生し、犯人逮捕で終結したはずの少女誘拐殺人事件。
だが、その裏側にはあまりにも多くの嘘や裏切り、腐敗や汚職があふれていた。
死期を迎えた刑事の告白、目撃証言に挟み込まれた意図、被害者の母の衝撃的告発、そして埋葬された記念品…。
事件を洗い直すべく動き出した通信社記者と女性弁護士は、次々と意外な事実に突き当たる。
ともに東京拘置所に収監されている死刑確定者と、勾留中の刑事被告人の間には、いかなる接点があったのか。
ラスト10ページで明かされる驚愕の真相。「合法的殺人」に仕組まれたトリック。
冤罪で死刑判決を受けた男の無実を、最高裁の判決までに晴らす。
それが、女弁護士と記者に課せられた使命。
女弁護士は、刑事弁護のスペシャリストとして勇名をとどろかすために。
記者は、スクープをモノにし仕事の失点を何とか回復するために。
死刑判決までのタイムリミットサスペンスと言えば、高野和明の「13階段」が思い浮かぶ。
「13階段」はスリリングな時間との戦いと、鮮やかなどんでん返しが魅力。
良い意味で、想像を裏切るサスペンス小説だ。
物語の構造はこの作品も同じ。
ラストで見せるどんでん返しはとても良くできていると思うし、伏線の張り方や小道具の使い方も見事だと思う。
特に、栗原の死刑を早めるために行った画策や、栗原に和歌を引用して手紙を書かせるくだりなど、伏線としてとても巧いと思う。
ただ、惜しむらくはそのどんでん返しが意外にわかりやすいということ。
僕のような、うすぼんやりの読者にもわかったのだから、たいていの読者の予想の範疇だろう。
※ここからねたばらし含む
なぜ、誰にでもわかりやすいか。
それは、骨髄移植の一件があからさま過ぎる伏線として用意されているからだ。
骨髄移植が山崎を救い出す目的であるとするならば、そのドナーは間違いなく女弁護士の家族(または非常に親しい人物)であろうと予想はつく。
それだけが彼女の目的であるならば、実際、山崎は冤罪ではないのだろうという結論に誰でもたどり着く。
ここまでわかれば、栗原を陥れるためのトリックなどが芋づる式に明らかになる。
非常にまとまっている作品なのだが、それだけにわかりやすい。
それが欠点と言えば欠点。
でも、全体的には楽しんで読めたし、描写もリアルで真に迫っていると思う。
十分に合格点をあげられる作品だ。