「CUT」 菅原和也 角川書店 ★★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

キャバクラのボーイ・透は、キャバ嬢・エコの送迎中に、路上で首なし死体に遭遇してしまう。

動揺する透に、エコは「死体の首を切断する主な理由」を淡々と講義し始めるのだった。

透は過去に弟を亡くして以来、消極的な人生を送っていたが、エキセントリックなエコに引っ張られるように、事件の捜査に巻き込まれていく。

最後のページを読み終えた時、最悪の絶望が待っている。

横溝賞史上最年少受賞者が放つ、二度読み必至、驚愕の本格ミステリ。



CUT



見知らぬ他人の死なんて、アクセサリを失くしたのと同じ程度の感傷でしかない。

死んだ人間に、残念も悲しいも痛いも痒いもない。


どう考えたって、これは正義の人が口にするセリフではない。


(一般的な)倫理観ゼロのアルバイト探偵、エコ。

そして、成り行きで助手を務めることになってしまった、キャバクラの客引きをしている下っ端ホストの透。


そんな風変わりなコンビが、連続殺人事件の犯人に挑む。


透は幼き日に弟を失ったことで自分自身を責め続けている。そんなわかりやすく、ステロタイプなトラウマは今さら読み飽きた。

でも、一風変わったエコのキャラクターで物語をリードし、読者を何とか引っ張っていく。

そうこうするうちに、「重力の密室」(犯人がもし侵入していたら床が抜け落ちていたはず)という魅力的な謎も登場したり、透がとうとう犯人と目されている平野に攫われたりと、後半に向けて物語は少しずつ加速としていく。


最後はエコの意外な(?)正体も明かされて、まあ無難な着地だよな……と思った。

たいして新鮮味も面白味もないけれど、整合性はとれているし、まとまってはいるんじゃない?なんて。


ところが。


エピローグに、本当のラストが待っていた。


この手の騙しのテクニックはさして珍しいわけじゃない。


今さらこういうトリックに騙されるとは思っていなかったのだけれど。


いや、見事に騙された。


アンフェアな隠し方ではなく、むしろあからさまに伏線も張ってあったのに。

(僕ほど鈍い読者でなければ、たいていは途中で気がつくと思う……)


スピード感やサスペンスフルな展開を重んじ過ぎているからか、ストーリーには重厚さが欠ける。

キャラクターも面白いとは思うけれど、好きになれるタイプではない。


だが、このラストで逆転、合格だ。


「重力の密室」の謎、首切りの理由、そして真の犯人。

いずれも納得。

特に「重力の密室」は「トリックのためのトリック」ではなく、

久しぶりに魅力的な密室に出会ったという感じ。


デビュー作(未読)もサイコもののようだが、この作者はどちらかと言えば本格ミステリの方向に向かったほうがもっと面白くなるのでは?


期待度は高い。

次回作もまた読みたいと思う。