「こわれもの」 浦賀和宏 徳間書店 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

売れっ子マンガ家、陣内龍二の婚約者・里美が交通事故で死んだ。

ショックのあまり、陣内は、自作のヒロインを作中で殺してしまう。

たちまちファンからの抗議が殺到。

その中に里美の死を予知した手紙があった。
日付は事故の数日前。

手紙の差出し人を訪ねると、神崎美佐という48歳の落着いた女性だった。

部屋には作中のキャラクターが飾られ、熱心なファンであることを示している。

何故、神崎は里美の死を予知できたのか?



こわれもの (徳間文庫)




※感想にはねたばらしが含まれますので、未読の方はご注意ください。



自分の娘を自殺に追い込んだ憎い男を殺すために。

それも、普通の殺し方ではなく、歓喜の瞬間から絶望の淵へ叩き落とすような殺し方で。


それはまあ、納得できるんですよね。


ただそのために、


「相手に自分が人の死を予言できる超能力者だと信じさせる」

→「相手の死を予言する」

→「相手を無事に守り、死に予言に勝ったのだと喜ばせる」

→「そのときに殺す」


という手順を踏むというのは……いくらなんでも、回り道が過ぎないでしょうかね。

もう少し、やりようがあったのでは。

これがちょっと引っかかりました。


神崎が行っていたのが、「死の予言」ではなく、「殺人予告」であったという展開は結構、衝撃的でした。

予言した相手が死んだら、「そいつが殺したんじゃないの?」って考えるのがフツーなんだけど、むしろ「何かトリックがあるのでは?」という方向にミスリードしていく書き様はとても巧いですね。

(まして、郵便のトリックは結構有名なので)


それだけに、神崎のやり方に説得力が薄かったことが残念。

(まあ、致命的な瑕疵ではないと思いますが)



ラストは……評価が難しいです。


僕は正直、あまり好きではありません

神崎が陣内の咽喉を掻き切るところでラスト……でよかったように思います。


ただ、蛇足とまで言い切れないのは、ラストで「陣内と、熱狂的オタクの三橋の視点からこの物語が書かれている理由」が明らかになったりするから。

このあたりの論理性、伏線の回収はお見事だと思います。


それを差し引いても、でもやっぱりラストは無くてもよかったかな。


このあたりは、読者によって意見が分かれるところでしょうね。