「十一月に死んだ悪魔」 愛川晶 文藝春秋 ★★★ | 水底の本棚

水底の本棚

しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

売れない小説家「碧井聖」こと柏原育弥は、妻子に見限られて家を追われたうえ、やっかいな発作に悩まされていた。

突然意識が遠のき、視界が闇に沈むと浮かび上がる楕円形の穴。

その底には恐ろしい魔物の気配が…。

11年前、交通事故による逆行性健忘で事故当日から一週間前までの記憶が失われ、その直後から「穴」の発作が始まったのだ。

そんな中、なんとか新作を書き上げようと四苦八苦する育弥は、ひょんなことからクリーニング屋の店員・宮崎舞華と同居することになる。

美人の上にセックスにも積極的な舞華だが、どこか様子がおかしい。

舞華の正体を探るうちに、育弥自身の失われた記憶が明らかになっていく……。

人の心のダークサイドを抉りだす衝撃の恋愛ミステリ。



十一月に死んだ悪魔



メインのストーリーと、作中作がふたつ、誰とも知れない人物の書いたメール、それから吾妻形人形や解離性障害などに関する知識など……中盤までは、何がどう関係してくるのかまったくわからないままに、ストーリーが展開していく。


謎だけがひたすら積み上がっていくので、頭を整理するのに精いっぱい。

読者としては、とりあえず流れに任せて、読み進めるしかないよなあという感じ。

これだけの伏線と謎をしっかり回収できるのか?と要らぬ心配までしてしまう始末。


終盤以降、主人公の記憶が戻っていくにつれて、少しずつ謎も明らかになっていくのだが、登場人物が記憶障害を持っているという条件は、なんでもアリになってしまうので、正直言えば、あまり好きではない。


「覚えていない」というのは、現実世界でもミステリの世界でも、

「それ言っちゃったら何でもアリだろ」というくらいずるい言い訳ナンバーワンだと思う。


そして、多重人格(この作品では解離性障害)というのも同じくらい卑怯だ。

「知らん間にもうひとりの自分がやった」とかいうのは、

「男の下半身は別人格」と同じことで、ずるい言い訳のナンバーツーくらいだと思う。



この作品は「別の人格」と「覚えていない」というずるい言い訳の最強ツートップで、すべての謎を回収する。


さすがに、これだけの謎と伏線は、このくらいの力業でなければ回収しきれなかったのかもしれないが、もう少し煩雑でないストーリーにしてもよかったのでは……という疑問が残るのは否めない。


謎が多すぎてどれがメインの謎かよくわからないので、謎解きされてもすっきりした爽快感がない。

(愛川作品には実はありがちな展開なのだが)


いわゆる「イヤミス」というジャンルに含まれる作品なのだと思うが……後味の悪さを味わうよりも、なんだかすっきりしない感じが最後まで残ってそっちのほうが気になってしまった。

残念。