「ダイスをころがせ!」 真保裕一 講談社 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
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こんな会社、辞めてやる!

失業中の駒井健一郎の前に高校時代のライバル・天知達彦が現れる。

「次の選挙に出る。力を貸してくれ」

だが、お金はないし、政党のコネもない。どうやったら選挙を戦っていけるのか。おまけに、なぜか嫌がらせまでが勃発して…。

読めば元気が出てくる痛快選挙小説!


ダイスをころがせ!(上) (講談社文庫)



これは一体、何が書きたかったのだろうか。


青臭い政治批判や理想論か。

(青臭い政治批判や理想論を悪いとはちっとも思わないのだが)

それとも、選挙活動をテーマにしたエンタテインメント作品か。


これが、選挙活動をきっちり描いた社会派小説であるなら、もっと面白かったかもしれない。

政治批判や選挙制度の批判をダイレクトに描くのではなく、物語の中でそれを上手に表現していけば面白い小説になっただろう。


それなのに、そこに中途半端に青春小説の要素や恋愛の要素、家族の物語なんかを盛り込むから、読み手としては興ざめをする。

結局、何が書きたいんだよ?と言いたくなる。


人物の書き込みも中途半端だから、まったく感情移入ができない。

感情移入ができていないから、彼らの直面している問題に対して関心が持てない。

祖父の潔白も、家庭の崩壊も、過去の恋愛事情も、見知らぬ他人の話なんてどうでもいいやと思ってしまう。


文庫で上下巻の長さがあるのに、ものすごく密度の薄い小説を読んだという気がした。

重厚でもなければ、軽快でもない。


ラストで、天知が当選を果たしたかどうかをはっきりさせていないことに、もしかしたら批判があるかもしれないが……僕は「まあ、どっちでもいいや」と思った。

その程度の関心しか、最後まで持てなかった。