天下統一を目前にしながら、本能寺で明智光秀の謀反に斃れた織田信長。
それから三十年余、とある山寺に「本能寺の変」に関わった武士や僧侶、尼ら六人が集まり、事変の裏で起きていたことを語り合う。
彼らはいったい何を見、何を聞き、何を思ったのか。何に関わり何を知ってしまったのか。
いまなお謎に包まれる「本能寺の変」の真相を解き明かす怪作。
本能寺の変について書かれた小説は数多ある。
実は黒幕は秀吉だったとか、家康だったとか、柴田勝家だったとか、お市の方だったとか…。
犯人にされていないヤツはいないんじゃないかっていうくらい。
果ては信長は実は自殺だったとか…。
珍説、奇説は今までにいくらもあった。
そういう意味において本作の第六夜で語られる真相は、取り立てて珍しいものではない。
というより、ちょっとばかりガッカリする。
え? 本能寺の変ってそんなつまんない理由で起こったの?
歴史を動かすターングポイントとなった事変のきっかけがこれかあ……と、ある意味驚愕。
なので、そこにはあまり期待しないように。
それよりも、本能寺の変のサイドストーリーとも言える各話が面白い。
特に、第一夜。
秀吉の狡猾さが恐ろしい。
それから第二夜。
狡猾さで言えば、家康のほうが上か。その奸計は読者の想像を確実に超えるはず。
まるでミステリを読むように楽しめる。
後味は決して良いとは言えないが、真相に迫っていくその手順が本当に巧い。
歴史小説と括ってしまうのは惜しい。
歴史小説は苦手。
そんな人にもぜひ読んでほしい。