「放課後探偵団 書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー」 相沢沙呼他 東京創元社 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

『理由あって冬に出る』の似鳥鶏、『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞した相沢沙呼、『叫びと祈り』が絶賛された第5回ミステリーズ!新人賞受賞の梓崎優、同賞佳作入選の「聴き屋」シリーズの市井豊、そして2011年の本格的デビューを前に本書で初めて作品を発表する鵜林伸也。ミステリ界の新たな潮流を予感させる新世代の気鋭五人が描く、学園探偵たちの活躍譚。




いわゆる学園ミステリです。

ジャンルとしては「日常の謎」というやつですね。


学校というのは、たいていの人は誰でもよく知っている場所。

作家にしてみれば、特に専門知識がなくても書ける舞台で、読者の側にしても感情移入が容易。

だからかどうかはわからないけれど、ミステリの舞台としては非常によく使われる場所ですよね。

でも、そのぶん小説の題材としては難易度は高いと思います。


「学校で起こる日常の謎」なんて作品は山ほどあるだけに、何かひと工夫しないと、どこかで読んだことがあるような作品だなあ、ということになってしまう。



その点で言えば、印象に残った作品は、

梓崎優さんの「スプリング・ハズ・カム」

※ここから先は作品の真相に触れますので未読の方はご注意を。






叙述ミステリは大好きで、よく読んでいます。

読みすぎて、ちょっと食傷気味。

もはや、「○○だと思ったでしょ? 実は××でした」と言われたところで、それほど驚かない。

ああ、そうだったんだ…と思うだけ。

むしろ、「あ、このあたりに叙述トリックが隠れてそう」と事前に察知できてしまうことのほうが多い。


だから、この作品にしても「実は幽霊でした」と言われても、そうは驚けなかった。

「実は幽霊でした」の前例としては、とても有名な映画もあるしね。



この作品の面白さは、その伏線の張り方。


幽霊である支倉春美は、主人公の鳩村にしか見えていない。声も聞こえていない。

それなのに、春美は、ばんばん鳩村に話しかけちゃうし、鳩村もフツーに受け答えしている。

にもかかわらず、「おい、鳩村。何、ブツブツ独り言いってんだよ」とか「鳩村、誰と話してんだよ?」とかいったことにはならない。

みんなとの会話もちゃんと成立している。

その工夫がすごい。


春美が幽霊だと知らされた後、「なんでだよ。フツーにみんなと会話していたじゃんか」と思った僕は、もう一度最初に戻って読み直してみたが、彼女の言葉に応えているのは鳩村だけだし、(もし春美のセリフを抜いたとしても)その鳩村の言葉はみんなの会話の中でまったく不自然ではなく成立していた。



誰が卒業式でCDをかけるという悪戯を仕掛けたか、そしてその犯人はどうやって放送室から脱出したかという真相は正直、どうでもいい。



そのパーフェクトな伏線の隠し方に感心をした。

こういう精緻なミステリは本当に好きだ。