検索から、監視が始まる。
「人は知らないものにぶつかった時、何をするか?」
「検索する」
「それ、見張られてんだぞ」
恐妻家のシステムエンジニア・渡辺拓海が請け負った仕事は、ある出会い系サイトの仕様変更だった。
けれどもそのプログラムには不明な点が多く、発注元すら分からない。
そんな中、プロジェクトメンバーの上司や同僚のもとを次々に不幸が襲う。
彼らは皆、ある複数のキーワードを同時に検索していたのだった。
伊坂作品はたいてい二度以上読み返しているのですが、この作品は初読以降一度も読んでいませんでした。
さほど煩雑なストーリーでもないのに、なぜか読み終えた後に「すっきりしない感じ」が残ったという印象が強く、どうも読み返す気がしなかったのです。
この小説は、その「すっきりしない感じ」が特徴のひとつでもあるから、それはまさに作者の狙った通りなんでしょうが……それを好きかと言われれば難しいですね。
そんなわけで再読をためらっていたのですが、文庫化を機にもう一度手に取ってみました。
で、読み終えて。
感想そのものはあまり変わりませんでした。
抽象的で、暗示的で、なんだかよくわからない。そんな印象です。
僕の読解力の低さはさておくとして、作中人物の作家・井坂好太郎が「人生は要約できねぇんだよ」と発言していますが、同じようにこの小説も「こういうテーマなんだよ」とひとつのテーマとして集約して語ることはできないのでしょう。
集約して語れるような小説なんて面白いはずもないしね。
ただ、今回読んでちょっといいなと思ったセリフがありました。
初読のときは何となく読み飛ばしていたのですが。
いいか、小説ってのは、大勢の人間の背中をわーっと押して、動かすようなものじゃねえんだよ。
音楽みてえに、集まったみんなを熱狂させてな、さてそら、みんなで何かをやろうぜ、なんてことはできねえんだ。役割が違う。
小説はな、一人一人の人間の身体に沁みていくだけだ。
「沁みていく?何がどこに?」
読んだ奴のどこか、だろ。じわっと沁みていくんだよ。
人を動かすわけじゃない。ただ、沁みて、溶ける。
そうだよねえ。うんうん。
と思わず頷いてしまいたくなりますね。
今まで僕が読んだ本は間違いなく僕のどこかに沁みて溶けている。
良かった本も、良くなかった本も。
絶対に僕を構成する一要素になっている。
だけど音楽はそうじゃない。
僕が音楽よりも本が好きだとかそういう理由ではなく。
「ロックな生き方」はあっても「ロックな人間」はいない。(たぶん)
本は大勢を突き動かしたりしない。
でも、静かにしみこんでいく。
だから本はあんまりたくさんは売れない。
(という売上不振の言い訳を思いついた)
その代り、自分だけの一冊を見つけることもできる。
世界を守ることは難しくても、自分の大切な何かを守ることはできるように。