双葉社の営業、Nさんがやってきました。
フィギュアスケートの小塚崇彦選手に似たナイスガイです。
双葉文庫から出ている長岡弘樹さんの「傍聞き」を勧められて読んだところ結構面白かったので、そう言ったら、
「じゃあぜひ仕掛けましょう!」
と大乗り気になり、今回POPだのパネルだのを持ってきてくれたのです。
「傍聞き」は短編集ですが一篇一篇が丁寧に作られているという印象があり、本当に奇麗にまとまっています。
どの短編も「うまいなあ」と思わせてくれますよ。
ベストセラーにはなりそうもありませんが、読んで損はない一冊です。
ところで、彼がやってくると仕事の話よりも雑談している時間のほうが長くなるので忙しい時間帯には迷惑な相手です。
でも飲み友達ですからやむをえません。
雑談と言っても本の話しかしてませんしね。
Nさんはなかなかの読書家で、会うたびに面白かった本を紹介してくれます。
読書傾向は僕と大きく違わないのですが、なぜか僕が読んだことのない本ばかり勧めてくるという。
「ああ、それね。面白かったですよね」という返しよりも、
「へえー。知らないなあ。面白いんですか。じゃあ今度読んでみます」
と言わされるほうがはるかに多い。
今回もNさんが僕に勧めてきたのは、祥伝社文庫から出ている三羽省吾さんの「公園で逢いましょう。」です。
しかしどうして出版社の人間というヤツは、他社の本ばかり「面白い」と言うのか。
みんなそうなんですよ。
どいつもこいつも。
角川書店の営業さんは電撃文庫のフェアを無視して山積みになっている「ONE PIECE」の新刊台に食いつき「写真撮ってもいいッスかね?」と言う。
文藝春秋の営業さんはガリレオ先生を差し置いて「やっぱ東野圭吾は加賀のシリーズが一番面白いですよね」とかのたまっていた。
……愛社精神というものはないのか、キミタチには(笑)
まあ、それはさておき。
せっかく勧められたのだから…と「公園で逢いましょう。」を読んでみました。
三羽省吾さん初体験。
ひょうたん公園に集う五人のママたち。
彼女らの心の奥にしまわれた過去が、日常の中でふと蘇る。
一篇で一人のママさんを主人公にして計五篇。
爽やかな感動を呼ぶ連作小説です。
読後感が良く、温かな気持ちにさせてくれますね。
でも、こういう本はたぶん売れない。
良い本だと思うし、誰が読んでもつまらないと言う人はいないでしょう。
でも、それは何と言うか……「いい人」と評価されるような男が決して恋人にはなれないように。
「良い本だね」という評価だけで終わってしまうような気がします。
今売れるのは、どぎついインパクトのある本。
たとえば新刊以外でウチで一番動きがあるのは「殺人鬼フジコの衝動」(真梨幸子/徳間文庫)。
もう、タイトルだけで十分にキツイでしょう。
その前は「プラ・バロック」(結城充考/光文社文庫)。
これも冒頭で冷凍倉庫から14体の死体が発見されるシーンからはじまります。
キツイよね。
そう言えば当の双葉社さんの近年の大ヒットと言えば、湊かなえさんの「告白」。
これだってブラックなテイストがウリの作品です。
POPには「衝撃の結末」だとか「背筋の凍るような犯罪」とか「驚愕のどんでん返し」とか。
そんな文句ばかり並んでいるようです。
(僕ら書店員もそんな惹句ばかり書いているような気がしますし)
「温かな気持ちになれます」とか「ハートフルな物語」とか「爽やかな読後感」とか。
そんな言葉では本は売れないんですよね。
僕はそれをちょっとだけさびしく思います。
二転三転する衝撃の真実もなければ、派手な惨殺シーンも、驚愕の結末もない。
意外な犯人も、悪魔のような動機も、複雑怪奇なトリックも出てこない。
それでも面白い小説というのはいくらも存在するんです。
そして。
そういう作品だって売れてほしいって思うんですよね。