関東の地方都市にあるスーパーの保安責任者・平田は、ある日、店で万引きを働いた末永ますみを捕まえた。
いつもは情け容赦なく警察へ引き渡す平田だったが、免許証の生年月日を見て気が変わり、見逃すことに。
それをきっかけに交流が生まれた2人。
やがて平田は己の身の上をますみに語り始めるが、偶然か天の配剤か、2人を結ぶ運命の糸はあまりに残酷な結末へと導いていく。
ラスト5ページで世界が反転する!
今日、文藝春秋の営業さんが来て、「読みました?」
「もちろん。読みました」
「どうでした?」
「いや面白かったですよ。ラストの展開の……」
「おおっと。言わないでください。私まだ読んでないんですよ」
おい。
じゃあ、なぜ感想を訊いた?
それと。
自分とこの本まだ読んでないってどういうことだ。
まあ、それはさておいて。
確かにこの物語の感想を語るのはとても難しい。
どんなミステリだって、ねたばらしなしで語るのはとても難しい。
未読の相手に対しては何も言わないのが一番無難で正解だ。
でもこの物語は特にだ。
何しろオビの惹句によれば「ラスト5ページで世界が反転する」のが持ち味なんだから。
そこが物語の肝で、そこを語らなくては意味がない。
でも、そこを語るなんていうのは、サイテーのマナーだ。
僕に言わせれば、そもそもオビで「ラスト5ページで世界が反転する」ことを書いてしまうのだって、ルール違反だという気がする。
だって最後にどんでん返しがあるってあらかじめわかっていたら身構えてしまうじゃない。
どんでん返しは突然にひっくり返されるから驚くのであって、「そこでひっくり返るぞ」と教えられていて、びっくりするヤツはいない。
出版社の皆さん、もう少しミステリに対する敬意と愛情を。
というわけで、ここから先は既読の方もしくは生涯、本作を読むつもりがない方だけどうぞ。
僕はこの本を読んで、東野圭吾さんの「容疑者Xの献身」を思い出しました。
末永ますみは自分に手を差し伸べてくれた平田のために、自分には何ができるかを必死に考えたのでしょう。
お金もない、学もない、社会的地位もない、女としての魅力にも乏しい。
そんな自分が、唯一できることはなんだろうと、それこそ夜も寝ずに悩んだに違いありません。
その結果、彼女が選んだ道は、自らを生贄に差し出すこと。
自分がどれほど平田に恨まれようとも、憎まれようとも、嫌われようとも。
それで平田の気持ちが少しでも楽になるのなら。
彼女はそれでいいと思ったのでしょう。
結果、末永ますみは平田に殺されてしまいます。
二人を知る医師はそれを「彼女の誤算だった」と言いますが、僕はそうは思いません。
末永ますみは。
おそらく、平田に殺されることも覚悟の上だったのでしょう。
平田のために、緻密な計算のもとに「完璧な」嘘の告白を行った彼女が、平田の激昂を想像できないとは思えません。
平田が復讐の鬼と化すこともきっと彼女の計算に入っていた。
それでも彼女は彼女は嘘の告白を行った。
僕はそう思ったし、その覚悟が、愛する人を守るために全身全霊を賭けた「容疑者Xの献身」の石神哲哉の姿と重なりました。
どっちも文藝春秋の本だからね。
その話、営業さんとしたかったんだけどなー。