9th[一般的12号<14号]
「あっれー?クサ太郎くんはどこいったんだろ?」
「おや、本当ですね。せっかく僕らが看病してさしあげようと思ったのですが」
その手には先ほど言った通りの焼きネギ。
コチュジャンたっぷりの韓国料理と思われるもの。
その二つが手にとられていた。
「いっやー、しかしネーゼ!おまえそれよく似合うねー」
「これですか?これは昨日、僕のハニーが来たことを言うと彼が作ってくれたんですよ」
そういう白銀が纏っているのは、いかにも新婚の新妻などが喜んで着そうなフリルたっぷりの純白のエプロンだった。
ちなみに先ほど脱いだので上半身のみ裸エプロンだ。
それにしても長身の男の裸エプロンは………うん、まあそのなんだ。アレだな。
「あはは、なるほどー。萌くんか、やっぱいい趣味してるねー」
そう言って笑い合って、波華は腰を上げた。
「おや?もう、僕と草太郎君との愛の巣から出て行ってしまうのですか?」
「うん、まあねー。大体、愛の巣ならなおさら早くおいとましなくちゃだしねー。一旦部屋に帰ってくるよ」
そんなことを言いながら、じゃあねーと言って扉を閉めた。
□■□■□■□■□■□
よかった。
どうやら二人は僕に気付かなかったようだ。
そう思って階段を上っていると、レイ君が自分の部屋の前の廊下で、立っていた。
そして、僕に気付くとあ、と言ってこちらを振り向いた。
……もしかしてね?
「レイ君、あのーもしかして、今から出かけますか?」
もし、今から出かけるんだとしたら、僕も迷惑じゃない限りついていこうと思った。
じゃないと、あの二人からとんでもない目にあわされるような気がしたからだ。
だが、以外にもレイ君は首を振った。
「……多分、来ると思ったから。……待ってた」
「へ?」
一瞬、意味が解らなくて、変な声が出た。
……え、なんで僕が来るってわかってたの?
「白銀の声と、君の声。……丸聞こえ。
だから、多分……僕のとこ、逃げてくる……って、思った」
理由がわかってほっとしたのと同時に、僕は青ざめた。
それと同時にまためまいがした。
だけど、僕の体をレイ君が支えて、部屋へ案内してくれた。
レイ君……ごめん!
僕、ココの人皆変わってると思ってたけど、君はまともな人だったね。
どうして、同じ状況なのにこんなにも扱いが白銀さんと違うんだ……!
あ、あと風さんもまともな人だよね。
……ただし、二人とも「ココを基準にした場合は」だけど。
「飲む……?」
部屋に入ったすぐ後に、レイ君はガラスに入った麦茶を出してくれた。
それは、氷は入っていないが、よく冷蔵庫で冷やされていた。
改めて部屋を見渡すと、ダンボールが2箱ほど隅にあった。
それを見て、倫さんが言っていたことを思い出した。
「そういえば、レイ君も先日引っ越して来たんですよね?」
「うん……」
部屋にあるのは、僕が勉強させてもらっている机・タンス・本棚(大量の本)・ダンボール……以上。
……え、生活感ほぼ皆無。
「他にもこれから届くんですか?」
「うん……」
そりゃ、そうですよね~。コレだけなんて……
「……本が」
って、まだ本が届くんですか!?
(ちなみにレイ君が今開けているダンボールにも本が入っている)
「あ……」
「ん……?草、どうした……?」
「あ、いえ。この問題がわからないんですけど、レイ君わかりますか?」
僕の方によってきて、「教科書……見せて」と言ってきた。
レイ君は、僕より年上だし、頭もよさそうだから、教えてもらおうと思ってはいたけど……
「ここ、加法定理……cos(α+β)=cosαcosβ-sinαsinβ……うん、そう……草、教えやすい」
……はっきり言って、先生とかに教えてもらうより、わかりやすいよ!
教えやすいって、むしろ教わってるこっちの方がわかりやすくて困ってるのに!?
やっぱり、上級生っていうのは凄いなあと、思いつつ、勉強を教えてもらっていると、軽く扉を叩く音が聞こえた。
「……はい」
レイ君が立ち上がって、玄関の扉を開けると、そこには風さんが立っていた。
「こんにちは、レイ君。管理人さんいるかしら?」
「いる……中。上がる……?」
「じゃあ、おじゃまさせてもらうわね」
僕がこんにちはと声をかけると、風さんはええ、とさっきまで見ていた顔(波華)と同じとは思えない顔(風華)で微笑んでくれた。
ああ、よかった。割とまともな人が集まって。
「……言って……いいか?」
「だめよ。代わりにこれ、はい」
そう言って風さんが何かの箱を渡した。
それを受け取るなり、いきなり無言になって台所へ持っていった。
そして、僕の前に来た風さんに僕は声をかけた。
「あの、風さん。僕に何か用ですか?」
「ええ、あのね、実は波華ちゃんが見当たらないの。どこか知らないかしら?」
……なんとも答えがたい。まさか僕の家にいるだろうとは言いがたいし……。
「……白銀さんの……お宅かと」
うん。嘘はついてないよ僕。
実際なぜかある扉で白銀さんの部屋と僕の部屋は繋がっているんだから!
「そう、ですか」
そう言うと少し風さんは肩をすくめてしまった。
う……もしかしてばれてる?
そんなことを思っていると、レイ君が向こうから、さっきもらった箱とお皿とナイフ……じゃなく、普通の包丁を持ってきた。
「……食べる分、切って」
「あ、うん」
渡された箱を開けると、そこにはケーキが入っていた。
……結構大きいんだけど。
まあ、せっかくなので僕も少し貰った。
「ところで、へ……いやいや、管理人さんは何をしていたの?」
「あ、レイ君に勉強を教えてもらっていたんですよ」
そう言うと、風さんは目を丸めて僕を見た。
…………いったいどうしてだろう。
「草……明日、入学式?」
レイ君がケーキを食べながら僕に話しかけてきました。
……ちなみに僕と風さんが切ったのは、大体一般的にカットして売られてるサイズ位だ。
(いや、風さんは思いのほか僕より多いけど)
そこでレイ君はどれだけ切ったのかというと………残り全部だ。
僕達が切った残りにそのままフォークを入れている……ま、まさか全部は食べないよね。
後は一人だから、食べた後の残りは冷蔵庫に保管するんだよね!?とか思いつつも勉強をしていた。
もちろんこの間もレイ君は、無表情にケーキを食べ続けていた。
「レイ君、嬉しそうだねー」
「あれで喜んでいるんですか!?表情変わりませんよ!」
喜んでるよねーと、風さんが聞くと、こくこくと頷いた。
……喜んでたんだ。
とりあえず話を戻さないと。
「そうですね、明日……みたいですね。
僕も、編手続きしないといけないから、学校行きますよ」
「私は明日は休みだよー」
嬉しそうに風さんが言う中、レイ君は少しだけ僕を見ていた。
「……2年生?」
「……もしかして、中学生と思った?」
「ううん……高1かと……色々、ごめん」
なぜだろう。確かに間違えられてる。
間違えられてるのに、中学生と思われなかっただけでなんでこんなに嬉しいんだろう!
ましてや、間違えたことを誤ってくれたのもしかしたらレイ君だけじゃない?
ふと、話題は変わるが、気になったことがあった。
「そういえば風さんって、頭いいですか?」
「え?なんでー?」
「いえ、何となくですけどね」
本当になんとなくだ。
恐らく同じ学年だから気になったと言うのが一番の理由だが。
「そうだねー風ちゃんは頭いいよ」
「………君は、教えがいが……ないけどね」
「な、なんだよー!!ボクはバカじゃないやい!」
あれ……?
今気づいたけど、風さんってこんな話し方だったっけ?
「……バカではない……ただ、聞いてくれない。……だから、波、君は教えがいが……ない」
「ああ――!!お化け君!何言ってるの!ボクは風ちゃんだよ、波華じゃないよー!!」
すいません、波華さん。
誤魔化しようがもう既にありません。
っていうか、レイ君が凄い無表情なのに、悲しそうなオーラをだしてるよ!
「もう、誤魔化し……限界だった、よ?」
「うそ――!!そんなことないよ!ねえ、へタレ君?」
僕が苦笑いをすると、波華さんは、うう、とたじろいだ。
確かに僕でも、いい加減気付いてしまっていた。
「うう、なんだい!ヘタレ君のくせして!ボクの完璧な変装を見破るなんて!!」
「……いや、大分……ボロ、出てた」
思い返してみると、確かに出ていた。
でも、それよりも気になるのは、見た目風さんで波華さんが悔しがっているところだ。
とても、こんな風さんを見る日はないだろうという位に外見とのギャップが激しすぎる。
「レイ君はいつから……?」
「……最初、ケーキもらったから……口にしなかった」
もしかして気づいてなかったの僕だけ!?
「ああ、もういい!開き直った!ところでさあ、どうして白髪君に勉強教えてもらってるのさ」
「……波にも……前に、教えた」
「ボクはバカだからいいの!」
さっきは違うって言ったのに、今度は認めた。
とりあえず、波華さんは、勉強が苦手らしい。
「クサ太郎くんはさ、頭良いんでしょ?お姉ちゃんに聞いたよ」
「まあ、それほどじゃないですけど」
実際、頭はいいと言うよりは、僕は奨学金のために常に学年で15番以内にいなくてはいけない。
だから、頭がいいというのとは違うと常々思っていた。
「じゃあ、なんで1年のお化け君にさ、勉強教えてもらってんの?」
「それは、もちろん……」
あれ?今波華さん何て?
「レイ君……。何年生?」
「15、新……高校1年生……のはず?」
いや、僕に聞かれても。
って、いやいやそれよりも。
「ええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
レイ君って、3年生じゃなかったの!?」
コクコクと相変わらずの表情で頷くレイ君。
落ち着いてるし、怒らないし、(多分)親切だし……ずっと年上だと思っていた。
『うるせえぞ!お前ら!!!』
壁越しに聞こえる日比谷先輩の声。
……確かに。身をもって体験した、ココのどれぐらい隣の部屋からの声が聞こえるのかを。
すると、隣から扉を開け放つ音が聞こえた。
『ウルサイのはあんたよ!!』
『うがっ!』
……どうやら、倫さんのロングヘアーアタックが日比谷先輩が喰らったらしい。
大丈夫かな?
「うっわー!楽しそう!!僕も混ざってくるね!!」
「うん……いってらっしゃい」
「いってきまーす!」
……なんでこんなことになるんだろうか。
とりあえず、とてもしていられる状況じゃなくなったので、勉強はやめにした。
最後にレイ君が言った言葉は「いつでも、聞きにきて……いいよ」だった。
少し、年上としては心苦しいが、わかりやすい説明だったのでその言葉はありがたかった。
そんな訳で、僕は白銀さんに絡まれることになるのをわかりつつも、部屋へと帰った。
明日は入学式らしい。僕も学校に行かないといけない。
今日は早めにねよう……そんなことを思いつつ部屋に帰った。
「あ、おかえりなさい。草太郎君!」
……早く眠れるわけが無かったのは言うまでも無いだろう。
next...?
結城 薫 → 浅田 ゆみ
今回担当者の結城です。
非常に長くなってしまってすいません。
短くしようかと思ったのですが上手く行かなくて。
これを打つのに3時間かかってるとかorz
次回は短く出来るように頑張ります。
あ、あと、今回なぜかやたらと、レイ君はまとも発言を草太郎にやらせてしまいましたが、実際はやっぱりあそこに住んでいる時点で、まともな人なわけがありません(笑
それでは、あとがきまで長々と書いてしまって失礼しました。