31th[true or doubt]
草太郎がそうやって鬱憤を晴らそうかと思っていたとき、部屋の扉を乱暴に叩く音がした。
何事かと思って扉を見やると、聞きなれた人の声が聞こえた。
「おぉ――い!草太郎いるかー?」
「あ、(ちっちゃくても)日比谷先輩、どうしたんですか?」
「僕が……開けてくる……」
そう言って、レイが扉を開けるとそこには見慣れた小さい亮……と、誰かもう一人いた。
見覚えのない背の高いその人は何とも妙な髪をしていた。
長い前髪の左側をピンで止め、残った分を耳にかけていた。
だが、何より変わっていたのはその髪の色だった。
全体はアッシュにしているのに、先の方だけ蒼く染めていた。
だが、人当たりは悪くない……むしろそこそこ整ったと言えなくも無い顔立ちにこの身長、この雰囲気だと好む人の方が多いだろう。……恐らくは。
レイと草太郎が、その人を見上げていると気づいたのか、口許を緩めて笑った。
「はじめまして、お邪魔するよ」
その男性がそう言うと、漸く気づいたという風な顔をして亮が説明しだした。
「あ、そっかそっか。草太郎とレイは会ったことねぇよな。
こいつは俺のダチで萩谷 秀司[はぎや しゅうじ]後で遅れてもう一人来るけど……まあ紀章は後でいいな」
「まあ、そういうことだよ、よろしくな。
君達が亮が言ってた新しく寮に来た子達か。
俺はちょくちょく来ると思うからそん時はよろしくな」
「あ……はい、こちらこそよろしくお願いします、来島草太郎です」
「同じく……如月、レイ」
そんな風に挨拶をしているともちろんこの人物が黙っているはずがなかった。
「それで……萩谷先輩はわざわざこんなオンボロアパートに何をしに来たのですか?
まさか挨拶だけをしに来たなんてバカなことは言いませんよねえ?」
余りにも挑発的な口調だったにも関わらず、秀司は気にせず普通に説明をした。
「ああ、実は帝先生にココに来るようにさっき言われたんだ。
何でも家庭訪問するから俺もついでにされろということだった……よな?亮」
そう聞かれると聞かれたで、亮は偉そうに腕を組んで「ああ」と頷いていた。
「……なぜ、ここに来る。……家庭訪問は……各自の家で……すべきなのでは……?」
つぶやくレイに答えようと秀司がすると意外な人物に答えられた。
「甘いですよレイ君!あの先生のぐうたら振りを舐めてはいけません!!
あの人はきっと『何人もの人の家に行くの面倒いなぁ、もうええやあいつら全員まとめて呼びつけたらええやろ。あそこやったら近いしな』とか思ってるに違いないですよ!」
「何帝先生の声真似までしてるんですか白銀さん!しかも似てませんよ!!」
いつものボケ漫才を繰り広げながら中に招き入れると、腰を落ち着けた秀司は少しきょろきょろとしていた。
それを不振に思った草太郎が尋ねると、亮が「ああ、大丈夫大丈夫気にすんな」と言った。
しかし、それだけでは事情を飲み込めない草太郎は首をひねるばかりだった。
「あのさ、今日はあの子ら……いないの?」
秀司が聞くと、白銀は不足そうに答えた。
「もうすぐ来ますよ。まったく、せっかく彼女達が出て行ったからようやく二人きりになって草太郎君にいたずら出来ると思いましたのに」
「白銀さん!いったいどんな悪戯ですか!もう勘弁してくださいよ!」
「白銀……僕も、いたから二人きりと……違う」
「何を言うのです!基本人畜無害な君はいてもいなくてもいたずらには支障ありません!」
「……ああ…………それもそうか」
「そこ!なっとくしないでよ!」
「お前ら……少しは黙れ――――!!!」
亮が切れるまでマシンガントークを続けていると漸く秀司の待望の人物が帰ってきた。
扉を軽くノックして開ける音がしたので、皆が振り返り見るとそこには星野姉妹がいた。
こちらの方を見て波華は荷物を足元に置いて慌ててこちらに来た。
一方の風華は、あらとか言いながら波華が置き散らした荷物を纏めてこちらに来た。
「風華!波華ちゃん!久しぶり、元気にしてたかい?」
「うわー秀司久しぶりー!まだ生きてたんだー」
「あはは、波華ちゃんは相変わらず冗談が上手いなあ。そういうところもかわいいよ」
「またそんな事言ってるー。ボクはお世辞なんかいらないよーだ!」
「お世辞じゃなくて本気だよ」
余りの秀司の口調等の変貌ぶりにレイと草太郎は唖然としている。
いや、レイは唖然としているようには見えないが。
一方の白銀はまたかという感じに違う意味で呆れ、亮はすでに感慨すらわいていない。
その間、秀司は始終星野姉妹を愛でていた。
「……え、これどういう状況ですか?」
「あーこれはですねー」
「よし!ココは俺様が逐一、萩谷秀司という人物につい……」
亮が張り切って解説をしようとすると、風華が割り込んできた。
彼女は普段こういうことをしないから珍しいだろう。
「秀司君は女の子が好きなんですよ、だから波ちゃんを可愛がってくれてるんです」
「え……あれは可愛がっているってレヴェルじゃ……」
「……むしろ……ナンパ……?」
「かわいがってくれてるんです」
はい、こわいです風華さん。
雰囲気はいつもどおりなのになぜか怖いです。
「……はい、ごめんなさい」
流石の二人も威圧感に圧倒され、おとなしくあやまった。
そして、言葉を中断された亮が風華に食いかかっていった。
「風華ー!なんで俺の邪魔をしやがる!
俺の滅多にない晴れ舞台をー!ってうわ!!」
亮が食いかかっていくと、秀司に首根っこを捕まれて宙に浮いていた。
ある意味当たり前だ。180を超える秀司の身長に対し、未だ150cm代にすらなれていない亮ならば、足が付かないのも当たり前。
「亮……お前、何風華に向かって行ってんの」
「は、離せ!話しやがれ――!!!」
後ろから怒ってるオーラを出してる秀司に、もがき、暴れる中学s……げふんげふん!亮の姿は余りにも滑稽だった。
なにをどうしたらいいのか急な展開についていけていない草太郎はもう混乱していた。
「もー!何がどうなってるんですか!」
「まあまあ、草太郎君気にせずお茶でも」
「……うまい……」
「白銀さんは和まないでください!レイ君も何和んでるんですか!あれ、もしかして僕だけ蚊帳の外……!?」
「仕方ありませんよ……何しろ彼は学校内でも有名な女たらしらしいですからねぇ」
そんな状況はさておきこちらはこちらで秀司が亮の首許をつかんで揺らしている。
そりゃあもうがったがったと!
「女の子に食ってかかるとはなんてことしてるんだ!
女の子は愛でろ!可愛がれ!」
「ちょ、秀司!やばい!俺の首なんか確実にやばいからー!!!」
「ちょ、タラシ君それはさすがにやめてあげてよー!ね、僕からのお願い!」
そう珍しく波華が頼み込めば不承不承という感じだが、漸く亮を解放した。
急に開放された亮はむせていた。その背中を風華が擦っている。
「波華ちゃんがそういうならいいけど……。
風華、君はそれでいいかい?」
「ええ、波華ちゃんがいいと言ってるんですもの。
駄目な理由なんて無いでしょう?秀司くん」
「……そうか、波華がそういうならいいや。
だけどな亮!女の子に危害を加えるやつは俺が許さないぞ」
あくまで最後までも女の子の味方らしい秀司。
……無駄に女の子が好きである。
「お前の女好きは……変わってるよな」
最後にこう亮は呟いた。
そのとき、ノックが再び聞こえた。
結城 薫
