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ほとんど観た歌舞伎の話

十月の昼の部の歌舞伎座は長唄囃子連中、大薩摩連中、常磐津連中、清元連中と名前が並びます。
邦楽音楽祭のようでもあります。

まず『廓三番叟』。
傾城(扇雀)、新造(梅枝)、太鼓持ち(巳之助)を翁・千歳・三番叟に見立てた踊りです。
華やかに飾り付けた吉原の座敷で三人が明るく軽やかに、踊ります。
巳之助がゆったり柔らかく踊るところもよくなったなーって思います。
女二人の衣装はもちろん、太鼓持ちの羽織と着物が対になった若草色のもとても綺麗です。
帯が朱色なのがいっそう若々しくっていいなあと思います。

続いて『ご贔屓勧進帳』。
先月に続いての義経一行の安宅関越えなのですが、弁慶(松緑)のキャラがだいぶ違います。
そして関所には富樫(愛之助)と番卒のほかに、斎藤次(彦三郎)という厳めしい役人と、運藤太・鈍藤太という家来もいます。
偽の勧進帳を読んだり、疑われた義経(坂東亀蔵)をぶっ叩いたりして、
富樫に通過を許してもらう一行ですが、弁慶ひとり松の木に縛られて遺ります。
斎藤次はまだ疑っているのです。
この弁慶を番卒たちがぽかぽか殴って虐めるのですが、
そうすると弁慶はうわーんうわーんと泣くのです。
もちろんウソ泣きなんだけど可愛い(笑)
こうやって時間稼ぎをして義経一行がもう安全なところへ行ったなって頃合いで暴れ出す弁慶。
黒い衣をもろ肌脱ぎにすると、赤鬼みたいなポツポツのついた赤い襦袢にお腹のところにアップリケみたいに○に弁の字がついている!
その弁慶が討って掛かってくる番卒たちの首をどんどん引っこ抜いて放り投げる。
まるで運動会の玉入れのようですが、首。シュール。
しかもその落ちた首をW藤太がお掃除、お掃除と箒でかき集めつつ、ラグビーネタ。
なんともファンタジックな勧進帳でありました。
松緑の可愛らしさと力強さがいい感じでした。
義経との一瞬のアイコンタクトで一行がすすすすーっと動くところのキリリとした顔と、
全体にのほほんとした感じの顔のギャップも楽しかったです。

次は『蜘蛛絲梓弦』。
源頼光(右團次)が臥せっているので、碓井貞光(松也)と坂田金時(尾上右近)が宿直をしている。
眠くなるから濃い茶でも飲みたいなあと言っていると、お茶を持った小姓(愛之助1)がやってくる。
前髪の可愛い小姓ですが、たまにちらりと鋭い目つきになる。
その小姓が消えたと思ったら、現れる太鼓持ち(愛之助2)。
扇を兜のしころに見立て、羅生門での綱と鬼の話を踊ってたかと思うと、
男と女の戯れみたいな話になって、これまたドロン。
ときどき、目つきが鋭かったり手つきが鉤爪になってたり怪しい。
次には木琴の音にのって座頭(愛之助3)が現れる。
常磐津さんから三味線を受け取って、浄瑠璃を語って聞かせます。
これも座頭なので目は見えないはずなのに、目つきが怪しい。
更に怪しいのは突然現れる傾城・薄雲太夫(愛之助4)。
いつの間にか頼光のそばに来ています。
貞光・金時ラインは突破されてしまったのか?
美しい傾城が自分の身の上を嘆きつつ、やはり怪しい手つきをして糸を撒いて消えていく。
これはもう絶対に蜘蛛の化け物がやってきたに違いないということで、
頼光と四天王の貞光・金時・渡辺綱(種之助)・卜部季武(虎之介)は化け物退治に出かけます。
本性を現した土蜘の精(愛之助5)と切り結び、これを退治するのでした。
愛之助の五役演じ分けが楽しいです。
踊りが楽しいのは太鼓持ちかなあ。
傾城は立ち姿がとても綺麗です。
愛之助、すぐテレビや映画に使われてしまうのですが、やっぱり舞台で観るのが好きです。

最後が菊五郎劇団が江戸風情を見せてくれる『江戸育お祭左七』。
前半がとても楽しいのに、最後が「ええ!?」っとなってしまう話ですが、
そういう筋よりも「これが江戸っ子ってものか」を味わう話のようです。

神田祭で賑わう町内、流しの芝居が通る店先に芸者の小糸(時蔵)は客の伴平(團蔵)と寄っています。
祭の世話掛かり(楽善)や鳶たちも集まって、そこで子ども二人がお軽・勘平の道行を踊るのです。
いつもは台の上に並ぶ清元連中も流し姿なのがめずらしく、面白いです。
お軽は亀三郎くん、勘平は寺島真秀くん。
世話掛かりも鳶もみな二人に注目してにこにこ。
お軽が踊っている間、じっとしている勘平のマホロくん、菊五郎爺さんによく似てます。
逢引からお勤めを逃げ出しての道行きという、小学校1年生のふたりにわかるのだろうかという状況ですが、
丁寧に踊る姿が可愛らしくて微笑ましくて目が離せません。
…そんな風にみんなの目が二人に集まっている間に左七は上がり込んで小糸とイチャイチャ。
イチャイチャも気になるけど、やっぱり亀三郎・マホロの可愛さの方に目がいきます。
伴内(橘太郎)がうまく二人にからんで、大いに盛り上がって踊りは終わり、人々は去っていきました。

このあと本編が始まるようなものですが、ここまででもう満足かも。
このあと小糸が強欲な継母とイヤな客から逃げようとしているのを左七が助けて家へ連れて行く。
お互いの身の上話(左七は加賀家のものに親を殺されたも同然、小糸は実の親がわからないまま、五歳から今の親に育てられた)などして、
これからはずっといっしょにいような、とか言ってると、
その継母が稼ぐ娘を連れ戻しに来る。
あいだに鳶頭を入れて、低姿勢でこられると無下にも断れず、いったん小糸は帰ることになる。

そのあと左七が小糸の家を訪ねてみると…小糸は親の仇の娘だったと追う話が展開していた。
あれよあれよで、楽しかった話が悲痛な話に。
しかもホントかどうかわからないのに、若い二人は信じ込んでる!

このおバカな若さを70過ぎた菊五郎が演じて説得力があるのがすごい。
気持ちがカッとなったりしゅんとなったり、落ち着いてじっくり考えるという分別が、
他のことにならできそうな人なのに小糸のことになると無くなっちゃう。
自信満々に振る舞ってるかと思うと、自信のなさや寂しさがぽろっと出る。
じっとうつむく顔は、先ほどのマホロくんの拡大コピーみたいな無垢さがあるではないですか。

最後は出刃包丁振り上げて幕、なので気持ちよくはないですが、
重苦しくもないのが菊五郎なんだろうな。

九月の重厚に対して十月の軽妙洒脱とでもいいましょうか。
歌舞伎いろいろだなあと思うのでした。