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ほとんど観た歌舞伎の話

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国立西洋美術館の『ロンドン・ナショナルギャラリー展』に行ってきました。

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当初の予定では東京の会期は3月3日から6月14日でした。
これは中止になっちゃうかも…と案じましたが、会期を変更して10月まで東京、
その後大阪も無事に決まったようです。

★東京会場:2020年6月18日(木)~10月18日(日)
大阪会場:2020年11月3日(火・祝)~2021年1月31日(日)

日時指定制で予め希望日の入場希望時間(30分毎)を予約します。
前売り券を持っていても、予約料を払って予約せねばなりません。
私は金曜日の3:30~4:00を予約しました。
金曜日は夜間観覧ができるので、この時間に入ってもゆっくり見られるし、
常設展も見ることができます。

ともあれ、無事に開催され、鑑賞できることが嬉しいです。

全61点が次のように展示されています。

Ⅰ イタリア・ルネサンス絵画の収集
Ⅱ オランダ絵画の黄金時代
Ⅲ ヴァン・ダイクとイギリス肖像画
Ⅳ グランド・ツアー
Ⅴ スペイン絵画の発見
Ⅵ 風景画とピクチャレスク
Ⅶ イギリスにおけるフランス近代美術受容

61点というのは余裕を持って展示できる数で、
しかも時間予約制で人数制限をしているので、とてもゆったり鑑賞できました。
絵によっては4,5人集まって眺めている絵もあるけれど、
一点ずつが割合大きな絵でもあるので、密な感じはしませんでした。

イタリア・ルネサンスの部屋は神話や聖書のエピソードが画題です。
私はこの部屋の絵はどれもとても楽しいです。
ウッチェロの「聖ゲオルギウス(聖ジョージ)と竜」が最初に飾られています。
退治される竜の羽に輪紋があるのが珍しい。
左に女性が竜と繋がる紐を持っているように見えるのですが、
竜は異教、女性は異教につながれた街(地方)の擬人化だそうで、
この絵のテーマは聖ゲオルギウスの布教の成功ってことになります。
このイングランドの守護聖人の絵からナショナルギャラリー展が始まるというのはなかなかいいではないですか。

この部屋で目立つのはクリベッリの「聖エミディウスと伴う受胎告知」。
御馴染みの大天使ガブリエルがユリの花持ってマリアの元に「神の子を身籠られましたぞ」と伝えに来る場面ですが、
横に聖エミディウスという人が街の模型のようなものを持ってガブリエルに見せている。
この絵はアスコリ・ピチェーノという都市が教皇から期限付き自治権を得たお祝いの絵でもあるそうです。
聖母懐胎と自治権獲得という二つのニュースが伝えられる場面になっています。
なので神聖な受胎告知場面なのにやたらと登場人物が多いです。
場所も如何にもイタリアの街中。
そしてなぜか絵からはみ出すように前方に描かれたリンゴと瓜(?)がおもしろい。
色彩も鮮やかで楽しい絵です。

ボッティチェリの絵もあるのですが、これは今までに見てきたギリシャ神話を画題にした絵に比べると、なんか沈んだ感じがします。
1500年というサボナローラ後の作品だからかもしれません。

ティントレットの「天の川の起源」は女神ヘラの胸から飛び散る母乳が天の川になりました、という絵なのですが、
赤ちゃんを連れてきてヘラ(クジャクが彼女のアトリビュート)に母乳を飲ませてもらえと押し付ける男はヘラの夫ゼウス(ワシが彼のアトリビュート)で、
パパがママに「ほらおっぱい呑ませてもらえ」なら微笑ましいのですが、
この赤ん坊ヘラクレスはヘラが産んだわけではありません。
しかも滅茶苦茶力の強い赤ん坊で、この時ヘラは「痛い!」と目を覚ましたのです。
ヘラにしてみれば「なんなのよっ!」って感じの状況ですが、
天の川の起源はヘラの母乳であったという逸話で気を取り直してください(違)

…このように、神話の絵は突っ込みをいれつつ楽しく鑑賞。

次のオランダ絵画の部屋はレンブラントの「34歳の自画像」がとてもハンサム。
フェルメールの「ヴァ―ジナルの前に座る若い女性」は他のフェルメールを思い出すと、
女性の顔が少しぼんやりして見える。
オーディオガイドを借りると、ここで「シュザンヌはある日」という鍵盤楽器の演奏が聴けます。ヴァ―ジナルというのもこんな音なのかしら。

イタリア・ルネサンスからオランダ絵画、一気に世俗的な雰囲気になりました。

3番目の部屋では女性たちの肖像画が多く、そのヘアスタイルやファッションが楽しいです。
ゲインズバラの「シドンズ夫人」は当時(18世紀末)の有名な女優だそうで、
「サラ・シドンズ賞」という映画「イブの総て」に出てくる架空の賞の名は彼女に因んだものだそう。
とても凛々しい美人に描かれています。マクベス夫人が当たり役だったとか。

「シャ―ロット王妃」は慎ましやかな感じの王妃ですが、この人なんと15人の子どもを産んだとか。
その孫がヴィクトリア女王になるそうです。

4番目の部屋はグランド・ツアー。
イギリスからイタリアへ憧れて周遊するのが両家の子女に流行ったのですね。
イタリアってこんな風だったんだよっていう絵葉書の特大版みたいなものかもしれません。
ヴェネチアの運河とローマの古代遺跡が人気だったみたいです。
18世紀はまだフィレンツエはそうでもなかったのかな?
「リチャード・ミルズの肖像」は地図に片手を置いて自分の旅の様子を留めようとする青年の姿が微笑ましいです。
今、SNSにばんばんアップする感覚に近いのではないかしら。


5番目はスペイン絵画の部屋。
お祈りを聴くマリアと接待の用意をするマルタ姉妹を部屋のあっちとこっちに分けたベラスケスの「マルタとマリアの家のキリスト」。
ニンニク、唐辛子、卵を前に鉢で何かを作ってるマルタの「なんであたしだけ?」って表情がリアル。
奥でマリアに滔々と説教してるキリストよりも、このマルタを「まあまあ」って宥めてるような老婆のほうが人生をわかってるような気がしてくる(笑)

ゴヤの「ウェリントン公爵」は対ナポレオン戦争のイギリスの英雄を描いたものだけど、
勲章の多い軍服を着ながらも「ああ、疲れた」風なふつうの紳士風な表情がいい。

そしてこの部屋で私の一番はムリーリョの「幼い洗礼者ヨハネと子羊」。
ヨハネも可愛いですが子羊のもふもふ感がたまりません!
つやつやのもふもふです!

6番目の部屋は風景画でプッサン、ロラン、ゲインズバラ、コンスタブルなどが並びます。
大きな画板に大きな風景を描いたものが多くなります。
ここではターナーの「ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス」が素晴らしいです。
古代ギリシャの「オデュッセイア」にある一場面で、トロイア戦争から帰還しようとするオデュッセウス一行の冒険談のひとつが画題です。
パッと見ると真ん中に船があって赤い甲冑姿の男が万歳してるので、これがオデュッセウスでしょう。
一つ目巨人の洞穴から無事逃げ出して、追い掛けてくる巨人ポリュフェモスに「ばーか」とか言ってるのかも(たぶん違います)。
この両者の状況だけでもおもしろいのですが、右側の明るいところをよく見ると太陽神アポロンの馬車がいたり、船の舳先の海面には海のニンフたちが泡のように描かれたりしていて、それは細かな美しい絵なのでした。
人がこんなにたくさん出てくるターナーの絵を見たのは初めてで、興奮してしまいました。

ターナーだけで満足したかもしれない、この部屋。

そして最後がフランス近代美術。

プーシキン美術館展やコート―ルド美術館展で近年見ている絵に近いものがあるので、
ちょっとホッとする感覚になります。
アングルの「アンジェリカを救うルッジェーロ」は「あれ、アンドロメダを救うペルセウス(ギリシャ神話)ではないの?」と思うような画題。
海中の岩に縛り付けられたアンジェリカを化け物が襲う、それを騎士ルッジェーロが救い出すという16世紀のイタリアの叙事詩に基づく話だそうです。
ここではガイドは美しく見せるためのアンジェリカの不自然なポーズについてや、
アングルの筆の跡がわからないほどの描きこみについて解説してくれます。
この絵の後のフランス絵画は筆のタッチも新しい表現になって見せ所になるので、
そこを押さえておいてねってことでしょうか。
私はこの最後の部屋でもう一度最初の「聖ゲオルギウスと竜」と同じような主題の絵に戻ったのがおもしろかったです。
「聖ゲオルギウス~」の女性がきちんとドレスを着て淑女らしく(竜に囚われてるのに)すくっと立ってたのに、
「アンジェリカ~」では女性はもう衣服はないし身体はよじれてるし、超こわがってるし。
私は「聖ゲオルギウス~」の静けさの方が好みです。

この部屋の最後の目玉がゴッホの「ひまわり」です。
ゴッホが描いた「ひまわり」は7点、その中で花瓶に署名が入っているのは2点、そのうちの1点です。
ゴーガンとの同居生活の部屋に飾ろうと描いたものだそうで、
ゴッホのつかの間の幸せな時代の絵ではないかと思われます。
ひまわりの萼と茎の緑以外はほぼ黄色系でまとめられたこの絵。
花瓶と壁と床を分ける青い線をアクセントにワントーンで見事にまとまってるなと思います。
背景を他の色にしてみたくならないか?と思うわけですが、
ちゃんと写真で他の「ひまわり」を紹介してて、青やペールグリーンなど他の色のもありました。
でも並べてみると、やはり本人が署名を入れたこの作品がいかにも南欧らしく、
一番いいように思えます。

61点に絞っての展覧会でしたが、余裕を持って観られて楽しいものでした。
なにより久しぶりにまた実物を鑑賞できることが嬉しかったです。
今回会期を延ばしてもらえたのは、こちらの状況が気の毒だったよねってこともあるけど、
あちらイギリスの方も今返すって言われても…な状況だからかな?とも思います。

ハリーポッターの世界のように絵の中の人たちがお喋りをできたら、
この状況をどんなふうに語り合うのかな~なんて妄想をしてしまいました。

常設展もいいですよ。

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