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ほとんど観た歌舞伎の話

吉右衛門といつものメンバーでの『通し狂言 孤高勇士嬢景清』を観てきました。
吉右衛門・東蔵・歌六・又五郎・雀右衛門らの名前が並ぶと、
すごく重い話なんじゃなかろうか?と思ってしまったのですが、
人間臭い平家の残党・景清のお話で、「よかったね」な終わり方でした。

最後の日向嶋での娘・糸滝との邂逅の場が一番の見どころだと思いますが、
そこに至るまでのエピソードの出し方がおもしろいです。
何がおもしろいって、頼朝がそこにいる。
私は「頼朝」という名前は出ても、本人が出てくる芝居を観たことがありません。
義経が主役なら、弟に冷たい権力者だし、頼家が主役なら謎の死に方をした父ちゃんです。

初めて観る頼朝(歌六)はそれはもう人格者で立派な将軍でした。
同じように本人は出てこないけど名前はよく出る人に平重盛がいますが、
そしてこの芝居でも景清は重盛を慕って位牌を大事に持っているのですが、
重盛と同じくらい立派な人って感じです。
この頼朝なら義経も受け入れたのではないかしら。

三保谷(歌昇)との力比べのエピソードや、熱田神宮の名刀・痣丸のエピソードも織り込み、
大仏殿での頼朝襲撃に失敗した景清が、頼朝の進化になれとの言葉に心打たれるも、
重盛たち平家一門への思いからこれを断り、おのれの目を潰してしまう話に進む。
頼朝の姿を見てしまうと恨む心、復讐しようという心が起こるから。

景清は、ひとりで多くの平家の人々の仇を討とうとしているのだ。
ひとりの主君の仇を何人もで討とうとするより素朴でわかりやすい気がする。
白塗りに隈取をした吉右衛門の姿は最近では珍しい。
頼朝に諫められて恐れ入ったり、三保谷と相撲で力比べをする様子はちょっとかわいい。
東大寺の法師八人で景清を止めようとするところはラグビーだった。
予想したより、軽やかな演出と展開でさらに手越宿花菱屋へと続く。

花菱屋は東海道の遊女屋である。
ここに糸滝(雀右衛門)という十四歳の娘が、肝煎・左治太夫(又五郎)に連れられてやってくる。
身売りをするためである。
父・景清が盲人となって日向で物乞いをして暮らしているらしいと聞き、
官位を買って、それで暮らせるようにしてあげたいという孝行娘である。
この話に優しい店の亭主(歌六)も、強欲なその妻(東蔵)も、店の遊女たちまでも、
みんなで協力してあげることになって、糸滝と左治太夫は日向に旅立つ。
こんなにトントン拍子に話が進むとは!

そしていよいよ、日向での父子の対面。
俊寛みたいになってる景清は、訪ねてきた糸滝を知らんふりするが、
里人(種之助・鷹之資)が「あの人が景清だよ」と教えてしまう。
嫁ぎ先の農家が裕福なので、お金を持ってきたと嘘をつく糸滝を景清は棒ふりあげて追い返す。
せっかく金持ちと一緒になったなら、父親のことなど気にせず幸せになればいいのだ、ふん、みたいな感じ。
泣く泣く手紙を置いて立ち去る糸滝と左治太夫。
里人が手紙を読むと、糸滝が身売りをしてお金を作った事情がわかり、
そこでガラリと態度が変わるというか、突っ張り切れなくなる景清。

もう、娘を返せ、行かせるなと大騒ぎ。
振り乱した髪がロックシンガーのロン毛のようにパサッと顔にかかった吉右衛門は、
いつものとは違う素敵さ。
そこに「実は」鎌倉方の見張りでしたということで、里人ふたりが綺麗な武士の姿に戻ります。
頼朝は機会を観てなんとか景清を翻意させて連れ帰ってほしいと言いつけてたのでした。

最後は立派な船に糸滝とともに乗船した景清が舳先から、
いつも持っていた重盛の位牌と紅梅の枝を海に流します。
日向(宮崎)から鎌倉へ向かうどのあたりでしょう?
もしかしたら重盛の位牌も壇ノ浦の一門のところに行けるような場所かもしれないです。

頼朝の手のうちで踊らされているような気もする景清の話ですが、
意地を張ったり、心が揺れたり、人の情けにころっと態度を変えてしまう景清の話、
人間臭くてけっこう楽しかったです。

雀右衛門、十四歳の娘にしてはいささか恰幅がいいものの、
この人はけっこうあどけない雰囲気が上手なので、クリアしてたと思います。

里人の種・鷹コンビの背格好がちょうど同じくらいで、
ふたりで一緒に歩いたりしてると双子っぽくて可愛かったです。