昼の部が「菅原伝授手習鑑」でズドーン!という感じなのに対して、
夜の部はいろいろ入ってて楽しい宝箱みたいな今月です。
まず「八陣守護城 湖水御座船の場」から。
これも十三世仁左衛門追善狂言で、長男の我當が佐藤正清、その長男の進之介が斑鳩平次。
佐藤正清は加藤清正のこと。
幕が開くと琵琶湖を渡る御座船があって、中に正清、平次、大介(萬太郎)、嫁の雛衣(魁春)が乗っています。
彼らは北畠春雄(家康のこと)を訪ね、接待を受けて帰るところ。
雛衣が琴を奏でるのを、正清はじっくり聴いている。
そこへ北畠から見送りと称して様子を見る使いが二度も来る。
北畠は接待で正清に毒酒を飲ませ、その後の様子をうかがっていたのでした。
正清も自分が毒酒を飲んだのはわかっていて、なお泰然としてみせていたのです。
安土の幼君(秀頼)を思い、身体に周る毒を堪え、「はてうららかな眺めじゃなあ」と言う正清。
その目は安土の城で自分を待つ幼君を見ているのか、彼を頼みに亡くなった主君を見ているのか。
正清の気迫と我當さんの気迫が掛け合わされたような、すごい舞台でした。
続いて勘九郎と玉三郎の「羽衣」。
三保の松原での天女と漁師の伝説の舞踊です。
長唄囃子連中にあわせてゆったり踊るスラリとした二人。
天女、ひたすら綺麗。
玉三郎、昼の部の覚寿婆と同じ人とは思えません。
そして伯竜はやっぱり一人でいいやと思うのでした。
そして「人情噺文七元結」。
笑えて泣けて、笑えて終わるいい話です。
今回、菊五郎の長兵衛に、女房のお兼が雀右衛門。
菊五郎と言えば時蔵でしょ、な時蔵は角海老のお駒に周りました。
雀右衛門のほうが貧乏が切羽詰まった感じがするかも。
娘のお久は莟玉で、最後に梅玉の鳶頭がうっれしそうに連れて帰ってきます。
どっちがおとっつぁんだ!?って感じです(笑)
梅枝の文七が眉がキリリとして、ふだんはできる奴なのに、
好きな碁だったのでついはまったのと、しくじったと思って焦って狼狽して危うく身投げという短絡なことをする
…というアホらしい(結果オーライなので)ことをする若い男の
「いるいる…」感がよかったです。
左団次の和泉屋と長兵衛のやりとりがすごくテンポがいいし、
みんな生き生きとしてて、この世界はホントにどこかにあるんじゃないかと思えてくる。
お駒の肩たたきをする小じょくのお豆は眞秀ちゃん。
長兵衛が文七を助ける件も感動するのですが、
お久がシミジミと両親仲良く暮らしてほしいと願い、
お兼が切々と親の喧嘩に娘は心を傷めていたと訴える件も、
とても胸に迫るものがありました。
それにしても梅枝の文七、おもしろかったです。
なんか今後もいろいろやらかしそうな想像を楽しめる文七でした。
切が「道行故郷の初雪」。
これは十三世の次男の秀太郎の追善狂言。
梅川(秀太郎)・忠兵衛(梅玉)が雪の中、忠兵衛の故郷の新口村までたどり着き、
一目父に会いたいと足を止めてしまう場面を清元舞踊で演じます。
揃いの黒の衣裳で雪の中に佇む二人に、相方を探す万才(松緑)が声をかけます。
万才はこの二人が追っ手のかかった二人と察しながら、優しく声をかけて去っていくのでした。
私、梅川に扮した秀太郎を観るのは初めてですが、
こういうのを「かわいらしなあ」と言うのでしょうね。
ちらちら降る白い雪、黒い着物に、赤い襟と唇。
とても綺麗なのでした。
梅川を引き立てるように、さりげなくいる梅玉@忠兵衛も素敵でした。
暖冬ではありますが、一年で一番寒い二月。
こういう時期はやっぱり心温まるお話がいいなあと思うのでした。