下総 香取神宮 | ゆめの跡に

ゆめの跡に

On the ruins of dreams

①拝殿②本殿③祈禱殿(旧拝殿)④楼門⑤奥宮⑥二の鳥居

 

訪問日:2023年4月

 

所在地:千葉県香取市

 

 12万年前の下末吉海進と呼ばれる房総半島は島であった。関東平野の多くも霞ヶ浦周辺も古東京湾の海底であったといわれ、7万2千年前頃に始まる最終氷期に徐々に陸地化していった。

 

 1万9千年前をボトムに縄文海進(温暖化)が始まり、約6500〜6000年前にピークを迎え、その海水準上昇は120mに及んだといい、平均気温は1〜2°C高かった。

 

 現在の霞ヶ浦(西浦・北浦)や印旛沼・手賀沼一帯には、香取海と呼ばれる内海が形成され、4〜7世紀にはその沿岸に多くの古墳が築造され、ヤマト王権の進出がうかがわれる。

 

 香取海は畿内から陸奥への要衝で、『日本書紀』や『常陸風土記』などでは東征の際、日本武尊が香取海を渡ったと思われる記述がある。香取神社と鹿島神社は香取海の入口の対岸に鎮座する。

 

 その後の平将門の乱(939-940)、平忠常の乱(1028)、さらには関東における治承・寿永の乱(1180-85)もまた、香取海を巡る争いが原因の一つと考えられている。

 

 徐々に香取海に注ぐ鬼怒川や小貝川による土砂の堆積により、海からの海水の流入が妨げられ淡水が混ざり始め、15〜16世紀にはヤマトシジミが大量に堆積することから汽水湖となったようだ。

 

 さらに徳川家康の江戸入府後、東京湾に注いでいた利根川の河道を付け替えて香取海に注ぐ工事が始まり、承応3年(1654)江戸から銚子河口まで繋がる水運路が開通した。

 

 しかし天明3年(1783)浅間山の大噴火による火山灰の堆積は利根川の川床を上昇させ、水害を激化するとともに、香取海への海水の流入がより妨げられ、淡水化が促進された。

 

 香取海の名も淡水化とともに忘れられ、江戸時代に生まれた「霞ヶ浦」が定着した。香取神宮を訪れても香取海の面影はなく、JR鹿島線の車窓に広がる田園風景から想像するのみである。

 

 

以下、現地案内板より

 

香取神宮の御由緒

 

御祭神 経津主大神

大神は天照大神の御神勅を奉じて国家建設の基を開かれ国土開拓の大業を果された建国の大功神であります。故に昔から国民の崇敬非常に篤く、国家鎮護、国運開発の神、民業指導の神、武徳の祖神として広く仰がれて居ります。

御創祀は神武天皇18年と伝へられ現在の御社殿は元禄13年の御造営にもとづくものです。

明治以降は官幣大社に列せられ毎年4月14日の例大祭には宮中より御使が参向される勅祭の神社であります。

 

 

日本書紀編纂1300年〜日本書紀と香取大神〜

 

 令和2年は日本の歴史書である『日本書紀』が完成して1300年を迎えます。日本書紀は奈良時代、天武天皇(40代)の命により編纂が始められ、舎人親王によって撰し進された、最初の正式な歴史書(正史)です。養老4年(720)に完成しました。全30巻で、神代から持統天皇(41代)までが取り扱われています。

 一方日本書紀と共に「記紀」と称される『古事記』も天武天皇の命で編纂されましたが、こちらは稗田阿礼が口述したものを太安万侶が書き留めたもので、和銅5年(712)に完成、神代から推古天皇(33代)までの全3巻となっています。

 どちらも日本の神話が描かれており「記紀神話」とも呼ばれていますが、両者には異なる部分があります。

 古事記は大和言葉をもとにした変体漢文の物語調査で表記されているのに対し、日本書紀は漢文、しかも年代順に記されており、さらに中国や朝鮮半島の文献も引用しています。これは何を意味するのかというと、古事記は国内向け、対して日本書紀は国外向けに編纂されたということです。その内容は共に天皇の日本統治の正当性を示したものですが、日本書紀は特に自国の歴史を国外に知らしめる目的があったのです。

 さて、香取神宮の御祭神は『経津主大神』、天照大御神の御神意を奉じて出雲の国譲りの大業を成し遂げられ、日本建国の基を築かれた神様であります。この経津主神は日本書紀に記されているのに、古事記には登場しません。

 日本書紀には、度重なる葦原中国の平定失敗に高天原の神々は、次に遣わす神は経津主神が適任であるとした。これに対し武甕槌神(鹿島の神)は、『経津主神だけが雄々しい立派な神で、私は違うのか!』と激しく抗議した。そのため経津主神に武甕槌神を副えて葦原中国へ遣わした、とあります。

 古事記の「国譲り」では鹿島の神[建御雷神]に天鳥船神を副えて遣わしたとありますが、日本書紀は香取の神が「主」であり、鹿島の神は「従」の関係となっています。

 日本書紀と古事記とではこうも記述の相違があり大変興味深いものがあります。